顧客からクーリングオフを主張されたらどうすればいいの?! で解説したとおり、EC・ネットショップにはクーリングオフは適用されませんが、特定商取引法における「法定返品権」に基づいて商品を返品することは認められています。
そして同記事で解説したとおり、特約で法定返品権は排除できますが、うっかりしていて特約を設けていなかった、あるいはあえて特約を設けていなかった場合は、顧客から法定返品権に基づく返品を主張されることがありえます。
この記事では、法定返品権に基づいて返品を受けるときの法的な注意点を弁護士が解説します。
返品に理由は不要
法定返品権に基づく返品を主張された場合、返品の理由は一切問われません。サイズが合わなかった、なんとなく気に入らない、そんな理由でも返品できます。
以下で詳説するように法定返品権の行使要件が整っているのであれば、ショップとしては顧客に詳細な理由を尋ねることなく、返品に応じる法的義務が生じます。
なお、「新品の服のはずなのに破れていた」といった、通常の商品の品質を満たしていない場合の返品は、法定返品権に基づく返品とは異なりますが、これは別の記事で解説します。
法定返品権には期限がある
法定返品権には行使期限があります。
顧客から法定返品権を主張されても、行使期限を過ぎていれば、堂々とお断りをしても、法的には何も問題はありません。
法定返品権の行使期限は、「商品の到着後8日以内」です。
ただし、8日以内に商品がショップに返送される必要はなく、8日以内に「法定返品権を行使する」という連絡がショップにあれば、法的には有効となります。
サービス(役務)も法定返品権の対象?
ECでは、何らかの有体物(商品)だけではなく、サービス(法律の条文では「役務」(えきむ)と呼ばれています。)を販売する場合もありますね。
注意すべきは、法定返品権は商品には認められるが、サービス(役務)には認められない、ということです。
サービスは、目に見えないものですから、「ネットでみた画像と実物が思っていたのと違った」といった消費者を保護する必要がありません。
そのため、サービスの提供に関しては法定返品権はそもそも認められていません。
送料は誰が負担する?
顧客が法定返品権に基づいて商品を返送する際「送料はショップ持ちで」と主張されたら、どうしますか?
安心してください。法定返品権を行使する場合の送料は、顧客負担であることが法律に明確に記載されています。どんな理由でも返品を認める代わりに、せめて送料は消費者側で負担せよ、ということですね。
(通信販売における契約の解除等)
第十五条の三
2 申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は特定権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、購入者の負担とする。
顧客サービスとしてどこまで対応するかはさておき、原則が顧客負担であることを理解した上で対応に臨みましょう。
法定返品権はどんな顧客にも成立する?
法定返品権は、どんな顧客にも成立するのでしょうか。
たとえば、業者から大量発注があった場合はどうでしょうか?
この場合、法定返品権は成立しません。
法定返品権は、一般消費者を護るために、特定商取引法に基づいて定められている特別なルールです。
そのため、業者間の取引(BtoB)の場合には、そもそも適用がないのです。
これは、相手が法人である場合は勿論のこと、個人事業主であっても、個人的な需要のためではなく営利目的での購入の場合には、同じく適用除外に該当します。
海外の顧客は?
さらに、これは特にネットショップにおいて重要なことですが、法定返品権は海外の顧客に対しては適用されません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
実際に法定返品権を主張された場合には、あわてずに、特定商取引法上のルールを確認した上で、本当に応じる義務のある主張なのか、法的には応じる義務はないが顧客サービスとして対応すべき次元のことなのか、理解した上で対応できるようにしましょう。
なお、顧客からクーリングオフを主張されたらどうすればいいの?! で解説したとおり、そもそも法定返品権の主張ができないようにするのが、ショップ側の第一の防衛策です。
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