A「ショップのサイトを新しくしたいので、制作お願いしていい?40万円税込でとうかな?」
B「引き受けます!」
以上のやり取りが口頭であった場合、AさんとBさんの間で契約は成立するのでしょうか?
弁護士が解説します。
口約束でも契約は成立する
AさんとBさんの間で冒頭のやりとりが口頭であった場合、AさんとBさんの間で契約は成立するのでしょうか?
答えは「YES」。
日本の法律(民法)では、契約の成立には特段の様式を問わず、契約の申込みと承諾さえあれば成立することになっています(法律用語では「諾成(だくせい)契約」と呼びます。)。
そのため、AさんとBさんの間では、「Aさんのショップのウェブサイトを40万円税込で作成するという業務委託契約」が成立したことになります。
トラブルになったときは事情が違う
と、いうのが原則なのですが、AさんとBさんの間でこの仕事に関してトラブルが生じた場合は事情が違います。
たとえばせっかくBさんが一生懸命作業してウェブサイトを完成させたのに、Aさんが「え?そんな仕事頼んでないけど?」と言ったらどうなるでしょうか?
そこまで極端な例ではなくても、「え?おれ20万っていったよね?」と言われたらどうでしょうか?
このようなケースでは、Bさんが40万円をきちっと支払ってもらうためには、最終的には裁判所で「Aさんのショップのウェブサイトを40万円税込で作成するという業務委託契約が成立したこと」を証明しなければいけません。
裁判を起こすときは、裁判を起こす側が、自分に有利な事実を証明する責任を負うのです。
ところが、裁判所で何らかの事実を証明する場合、必ず証拠が求められます。単なる口約束だけでは、何の証拠も残らないので、Bさんが裁判を起こしても勝てる確率は決して高くないでしょうし、勝てたとしても口約束の存在を証明するために途方も無い苦労をするはめになります。
メールやLINEだったら大丈夫?
では、口約束ではなく、メールやLINEであればどうでしょうか?
たしかに、口約束よりは、証明力の点において勝っています。
しかし、裁判、裁判まで行かずともトラブル状態になったとき、「そんなメールは送っていない」「そんなLINEは送っていない」「LINEが消えてしまったので残っていない」などといった反論を受けることは決して珍しいことではありません(実際、筆者もそのような裁判を担当し大変な苦労をした経験があります)。
そのため、口約束よりは当然マシですが、メールやLINEだけで高額の案件を委託又は受託することは、トラブルになった場合のリスクがまだまだ高いといえます。
業務委託契約書を活用しよう
そこでおすすめなのが、業務委託契約書を締結することです。
契約当事者が署名又は記名押印した契約書が存在する場合、裁判所においては契約が成立したことが推定される効力があるため(二段の推定と呼ばれています。)、万が一のトラブルになったときに契約書があるのは非常に有効です。
また、どこまでの作業を請け負ったのか、納期はいつなのか、代金はいくらなのか、代金の支払い時期はいつなのかといった具体的な内容も、契約書に書いておけば、その後相手方が契約書と違う内容を主張したとしても、相手方の主張が裁判所で認められる可能性は低いです(裁判官は契約書の内容をきわめて重視します。)。
なお、これまで、「わざわざハンコを押して契約書を作り、郵送するなんて面倒くさい、費用対効果が合わない」といったこともよく言われてきました。
たしかに少額の案件であればそのような意見も一理あるのですが、ここ数年、クラウドサインなどに代表される電子契約サービスが、個人事業主の間でも一般的に利用されるようになってきました。
多くの電子契約サービスが、個人向けの格安プランや無料プランを設定しているため、月に1、2件の契約書を締結するレベルであればほとんどコストなく、また郵送の手間もなく、契約書のデータさえあれば契約書を締結することができるようになりました。
このような技術革新により、今後、個人事業主や零細ネットショップでも、業務委託の際にはきちんと契約書を締結することが、一般化、マナー化していくことが予想されます。
なお、どのような書式で業務委託契約書を作成すればよいのかわからない方には、法律文書自動生成サービスKIYAC(キヤク)がおすすめです。
いくつかの簡単な質問に答えるだけ、わずか数分でシンプルな業務委託契約書を作成することができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
契約というのは、当事者同士の関係がうまくいっているときはあまり意識されません。
しかし、何らかの理由で関係がこじれてしまったり、トラブルが起きてしまったときに、はじめて真価を発揮するものです。
そして、契約の成立を証明できて、はじめてトラブル対策としても意味を有します。
電子契約サービスの普及により契約締結コストが大幅に下がっている状況も踏まえて、万が一トラブルが起きたときの最低限のリスクヘッジとして、是非積極的に業務委託契約の締結を検討することをおすすめします。