この記事では、弁護士が、EC・ネットショップにおける一般的な返金ポリシーの作り方をひな形条文つきで解説します。
EC・ネットショップの運用者で、返金ポリシーを今すぐ準備しないといけない方は必見です。
返金ポリシーとは
返金ポリシーとは、読んで字の如く、どのような場合に返金をするのか、返金の額はいくらかといったことを定めたルールです。
返金ポリシーの内容は、EC・ネットショップ事業者側で設定することができます。
逆に、返金ポリシーを定めていないと、どのような場合に返金が許されるのか、返金の額はいくらかといったことに、解釈の余地が生じてしまい、トラブルになった場合の解決が困難になります。
そのため、EC・ネットショップ事業者は必ず返金ポリシーを定めましょう。
なお、返金ポリシーの策定は、もともとはあまりメジャーではありませんでした。なぜなら、日本では、「特定商取引法に基づく表示」の中で、返金に関する事項も定めるケースが多かったためです。
他方で、返金に関するルールが一定の分量になってくる場合には、特定商取引法に基づく表示から切り離して、「返金ポリシー」として整備するのがユーザーからするとわかりやすいでしょう。
また、Shopifyなど海外のECプラットフォームが、返金ポリシーの設置を促していることもあり、返金ポリシーを設置する事業者は増えています。
ぜひ、返金ポリシーの設定・設置を検討してください。
各条項の解説
返金をそもそも許すか
EC・ネットショップにおいては、特定商取引法に基づくクーリングオフ制度は適用されないため、返金をそもそも許すか、一切認めないかは、EC事業者の判断次第です。
そのため、返金を許す、というのは、広い意味ではレピュテーション対策、顧客サービスの一環になります。
まず、返金を許すのか、そもそも一切認めないのか、検討しましょう。
なお、有体物の商品を販売する場合には、特定商取引法に基づく「法定返品権」という制度があります。これは、クーリング・オフに似た制度で、理由の如何を問わず、8日以内であれば返品を認めるというものです。
法定返品権については、適用を排除することができますので、返金ポリシーの中で、適用排除を明言しておきましょう。
(適用除外)
(前略)2 お客様は、本ポリシーに特に定める場合を除き、商品・役務の販売若しくは提供に関する契約(以下「本契約」といいます。)の申込みの撤回をし、又はその解除をすることができないものとし、本契約については特定商取引法第15条の3第1項本文を適用しないものとします。
以下では、法定返品権を排除した上で、一定の場合に返金を認める前提で検討していきます。
返金事由
どのような場合に返金を許すのか、具体的に記載しましょう。
商品の内容に重大な欠陥があった場合に限るなど、一定程度制約することも考えられますし、より広く、当社の判断次第では返金を受け付けるとすることもできます。ここは上記の通り、顧客サービスの側面を持つ部分なので、自社の方針に照らして検討しましょう。
以下では一例を挙げます。
(返金条件)
1 当社は、次の各号に該当する場合に限り、お客様に対して、受領済みの代金を返金します。
一 当社の責めに帰すべき事由により、商品・役務の販売又は提供がなされず、又は著しく遅延した場合
二 商品又は役務の全部又は一部に損傷又は欠陥があると当社が認めた場合
三 前各号に定めるものの他、当社が代金の返金を特に認めた場合
返品に要する送料
一定の場合に返金を認めるとして、次に、どのような方法で返金を受け付けるのか、その手続きについても具体的に記載するようにしましょう。
特に問題になるのが返品の場合の送料です。これも定めておかなければ、「不良品を送りつけてきた事業者側で負担してよ」と主張され、水掛け論になってしまう可能性があります。必ず顧客負担であることを明示しておきましょう。
なお、今回は触れませんが、上記の法定返品権に基づく返品の場合の送料は、顧客負担であることが法律上明記されています。
(商品の返送等)
1 お客様は、代金の返金を受ける場合には、別途当社の指定する時期までに、受領した商品を別途当社の指定する方法により、当社の指定する場所に持参又は送付するものとします。(以下略)
返金の方法・時期
返金の方法や時期についても明記するようにしましょう。
ただ、返金対応は個別具体の対応が必要になるケースも多く、あまりにも硬直的な記載をしてしまうと、逆に運用を阻害する恐れがあります。
ここでは、ある程度事業者側の裁量を許す、抽象的な記載の例を挙げます。
(返金方法・時期)
1 当社は、代金の返金を行う場合には、別途当社の指定する方法により代金を返金します。返金に要する費用(振込手数料等を含みます。)は、当社が負担とします。
2 前項に基づく代金の返金の時期は、別途当社が指定するものとします。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。
なお、返金ポリシーと別途、ネットショップの利用規約を設定していることが多いかと思います。このような場合には利用規約ですでに定めてある一般条項は、返金ポリシーには記載する必要はありません。他方で、このような場合には、返金ポリシーと利用規約の内容が抵触・矛盾する場合に、どちらの優先的に適用するのか記載しておくと便利でしょう。
返金ポリシーを作成するときに気をつけること
以上、返金ポリシーを作成するときに気をつけるべきことは、
- 返金をそもそも許すか
- 返金事由
- 返品に要する送料
- 返金の方法・時期
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した返金ポリシーを数分程度で作成できますので、手元にひな形がない人は是非利用してみてくださいね。