この記事では、弁護士が、一般的なシステム開発委託基本契約書(準委任形式)の作り方をひな形条文つきで解説します。
システム開発委託基本契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
システム開発委託基本契約書(準委任形式)とは
各条項の解説をする前に、そもそもシステム開発委託基本契約書とはどのような役割をする契約書なのでしょうか。
システム開発の世界では、さまざまな仕事が「業務委託」で行われています。アウトソースという言葉が使われることもありますが意味は同じです。
そして、業務委託やアウトソースは、契約書がなくても法的には有効に成立します。
その意味で、システム開発委託に関する契約書は「法的に必ず作らなければいけないもの」ではありません(なお、ギグワーカー・フリーランス保護の目的で、契約書やそれに準じる書面の作成義務を委託者に課す法律の制定が議論されていますが、ここではこれ以上は触れません。)。
しかし、契約書がないと、何の仕事を発注・受注したのか、納期はいつなのか、代金はいくらなのか、契約はどういった場合に解除できるのか、契約期間はどうなっているのか、といった、ありとあらゆることが「言った言わない」といった水掛け論になってしまい、非常にリスクが高いです。
特に高額の案件で契約書がないと、トラブルになったときに致命的です。
そこで、トラブルが起きたときにも万全の対応ができるように、システム開発に関しても業務委託契約書を準備することが強く推奨されます。とくに高額の受託案件では必ず契約書を準備するようにしましょう。
他方でシステム開発ではメインの依頼の他に細々とした依頼を多数請ける可能性もあるため、はじめにクライアントとの間で「基本契約」を締結しておき、後日個別の案件でトラブルになった時には基本契約書に立ち戻って協議する、という形をとることがあります。
今回は準委任契約であることを前提に、基本契約書としての機能をもったひな形をご紹介します。
各条項の解説
基本契約であることの明示
まずはこの契約が基本契約であり、基本契約に紐づいて個別の依頼に関する契約(個別契約)が成立することを明示しましょう。
個別契約についても、基本契約と同様に双方が記名捺印するタイプのちゃんとした「契約書」を準備しても構わないですし、そこまで厳密にやる必要がない、という場合には、個別契約の成立については注文書と注文請書で済ませるということも一般的です。
特に準委任形式の場合には、月次で更新されるなど短期間で大量の個別契約が発生することも多く、個別契約については簡略に成立する形態を取ることがあります。
ここでは以上を前提にした文例をご紹介します。
第○条(契約の目的)
1 甲は、本契約及び個別契約に定めるところにより、甲のコンピュータシステム(以下「本件システム」という。)の構築、運用及び保守に関する業務を乙に委託し、乙はこれを受託する。
2 甲乙間の個別契約は、甲乙協議の上定める個別契約書、覚書等の締結により成立するほか、甲が乙に対し、発注する業務内容並びにその対価の額及び支払条件等を記載した注文書を送付し、これに対して乙が甲に注文請書を返送することによっても成立する。
準委任であることの明示
これは特に受注側にとって重要な条項です。
請負形式であれば、成果物が完成しない限り発注者は代金の支払いを拒むことができますが、準委任であれば善良な管理者がの注意をもって誠実に業務に取り組んでいる限りにおいて、報酬が発生するのが民法の基本ルールです。
そのため、受注側は、この契約が請負ではなく準委任であることを契約書上も明示しておくとよいでしょう。
第○条(契約の目的)
(前略)○ 本契約の法的性質は準委任契約とする。
業務履行の確認方法
以上のとおり準委任契約では仕事を履行すれば成果物の納入如何に関わらず報酬が発生しますが、仕事の履行があったかなかったか、双方で疑義が生じるとトラブルのもとになります。
そこで、契約書の中で、仕事の履行の確認方法について定めておくことが有用です。
たとえば報告書の提出、これに対するサインや記名押印といった方法があります。
さらに、確認がされない場合であっても、一定期間が経過した場合には確認完了とみなす規定を置くと安心です。
以下例文です。
第○条(本件業務の確認)
1 乙は、当月に実施した本件業務について、その概要や稼働時間数等、甲乙間であらかじめ協議の上取り決めた事項を、翌月10日までに報告書により甲に報告する。
2 甲は、前項の報告を受けた場合には、10日以内(以下「点検期間」という。)にその内容を確認し、異議がない場合には乙に確認した旨の通知を行う。
3 甲が、点検期間内に書面で具体的な理由を明示して異議を述べないときは、点検期間の満了をもって前項の確認をした旨の通知をしたものとみなす。
納入物の著作権
システムに関する著作権が誰に帰属するかについて、特に何も定めを置かなければ開発をした人(著作者)に帰属することになります。
しかしこれでは発注者側が不便なので、最終的には発注者に著作権が帰属する、あるいは、著作権は開発者側に残るが発注者は自由に著作物を利用することができるといった定めをおきます。
ここでは代金の支払いをもって著作権が発注者に移転するタイプの文例をご紹介します。
第○条(納入物の著作権)
乙が本件業務により作成した甲のシステムに関するプログラム(ソースコードを含む)、付随データ、素材、モジュール等の著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、特に乙が著作権を留保したものを除き、前条の納入物の所有権とともに甲に移転する。
なお、細かい話ですが、ここで「著作権法27条及び28条」と触れられているのは、一度発生した著作物の二次創作に関する条項です。これらの権利だけが、著作権法上、別のカテゴリーになっており、このように契約書に明示しておかないと二次創作に関する権利だけが受託者に残ることになってしまいます。そのため委託者の立場であれば必ず著作権法27条及び28条の権利も移転することを明示しておきましょう。
損害賠償の上限設定
特に受託者の立場では、損害賠償について上限を設定することがリスクヘッジとして重要です。
たとえば、受託金額全額を賠償額の上限とする、という形であれば、委託者の理解を得られる場合も多いでしょう。
また、損害については、ありとあらゆる損害ではなく、「直接および現実に」発生した損害に限定しておくことが有用です。
以下例文です。
第○条(損害賠償)
甲及び乙は、本契約の履行に関し、相手方の責に帰すべき事由により直接の結果として現実に被った通常の損害に限り、相手方に対して損害賠償を請求することができる。損害賠償の上限額は、損害と直接関係する個別契約における委託料相当額を上限とする。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。
システム開発委託基本契約書(準委任)を作成するときに気をつけること
以上、システム開発委託基本契約書(準委任)を作成するときに気をつけるべきことは、
- 基本契約であることの明示
- 準委任であることの明示
- 業務履行の確認方法
- 納入物の著作権
- 損害賠償の上限設定
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 中島和也先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用したシステム開発委託基本契約書(準委任形式)を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。