動画制作の仕事を業務委託で行う際には、業務委託契約書の作成が必要になります。この記事では、弁護士が、一般的な動画制作物作成業務委託契約書の作り方をひな形条文つきで解説しています。動画制作物作成業務委託契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
動画制作物作成業務委託契約書とは
各条項の解説をする前に、そもそも動画制作物作成業務委託契約書とはどのような役割をする契約書なのでしょうか。
動画制作の世界では、さまざまな仕事が「業務委託」で行われています。アウトソースという言葉が使われることもありますが意味は同じです。
そして、業務委託やアウトソースは、契約書がなくても法的には有効に成立します。
その意味で、動画制作に関する契約書は「法的に必ず作らなければいけないもの」ではありません(なお、ギグワーカー・フリーランス保護の目的で、契約書やそれに準じる書面の作成義務を委託者に課す法律の制定が議論されていますが、ここではこれ以上は触れません。)。
しかし、契約書がないと、何の仕事を発注・受注したのか、納期はいつなのか、代金はいくらなのか、契約はどういった場合に解除できるのか、契約期間はどうなっているのか、といった、ありとあらゆることが「言った言わない」といった水掛け論になってしまい、非常にリスクが高いです。
特に高額の案件で契約書がないと、トラブルになったときに致命的です。
そこで、トラブルが起きたときにも万全の対応ができるように、動画制作に関しても業務委託契約書を準備することが強く推奨されます。とくに高額の受託案件では必ず契約書を準備するようにしましょう。
各条項の解説
仕様の確定
単純に「動画を制作する」と依頼するだけだと、それがどのような内容のものか、長さはどれくらいのものか、どのような構成のものか、本数など、ありとあらゆることが解釈に委ねられてしまいます。
そこで、案件を受けるにあたっては、はじめにクライアントとの間で、できるだけ納品する動画の仕様については、具体的な協議を行い、これをドキュメントに落とし込んでおくことが有効です。
そして、そのドキュメント(仕様書などと呼びますが名称は自由です)を、契約書の別紙として添付することで、どのような動画制作を受注したのか、明確にすることができるようになります。
GoogleDriveのURLなどで特定することも可能ですが、URLは後日変わってしまう可能性がありますので、紙媒体やPDFで添付しておくのが安全です。
契約書本体の記載としては、たとえば次のような文例が考えられます。
第○条(契約の目的)
1 甲は、本契約に定めるところにより、動画の制作に関する業務(以下「本件業務」という。)を乙に委託し、乙はこれを受託する。
2 本件業務に基づき制作される動画(以下「本件動画」という。)の具体的内容は別紙仕様書に定めるとおりとする。
検修方法の明示
動画制作案件の場合、検修の方法について適切な規定をおきましょう。
とくに請負形式では、仕事が完成しないと、報酬(の満額)が発生しないという形態が一般的です。
どのような場合が仕事の「完成」になるのかを、検修の方法という形で具体的に定義しておくのです。
ここでは、動画を納品し、一定期間以内に仕様書と内容に齟齬がないかクライアントに確認させ、確認書が交付されれば検修完了、という文例を紹介します。
さらに、確認書が交付されない場合であっても、一定期間が経過した場合には確認書が交付されたものとみなす規定をおくことによって、検修をクリアすることができます。
第○条(本件業務の承認及び完了)
1 本件動画の納入は、甲乙が別途定める方法による。
2 甲は、前項の納入がなされた日から7日以内に本件動画が別紙仕様書に適合しているか否かを確認する。
3 前項の確認の結果、本件動画が仕様書に適合すると認めた場合、甲は直ちに乙の指定する確認書に記名押印(電子的署名による確認を含む。)し、乙に交付する。
4 前項の確認書が交付されない場合であっても、第2項の期間内に甲から書面による異議の申出がない場合は、第2項の期間の満了をもって甲の承認があったものとみなす。
5 前2項による確認書の交付時又は第2項の期間の満了をもって、本件動画の検収は完了するものとする。
対価の支払い
どのような条件で、いつ、いくらが報酬として支払われるのかについて、明示しておきましょう。
振込先口座や振込手数料の負担についても明示しておくと安心です。
税別税込についてもトラブルになりやすい部分なので、必ず明記するようにしましょう。
第○条(対価の支払い)
甲は、乙に対し、本件業務及び本件動画の使用の対価を下記のとおり支払うものとする。ただし、振込手数料は甲の負担とする。
記
(1)動画制作料金 ○円(税込)
(2)支払期日 ○年○月○日
(3)振込先口座 ○○銀行 ○○支店 普通 口座番号○○ 口座名義○○
動画の著作権
納品した動画の著作権が誰に帰属するかについて、特に何も定めを置かなければ動画を制作した人(著作者)に帰属することになります。
しかしこれでは発注者側が不便なので、最終的には発注者に著作権が帰属する、あるいは、著作権は制作会社に残るが発注者は自由に著作物を利用することができるといった定めをおきます。
ここでは代金の支払いをもって著作権が発注者に移転するタイプの文例をご紹介します。
第○条(納入物の権利帰属)
乙が甲に納入する成果物(本件動画を記録した記録メディアを含む。)の所有権、著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)その他一切の知的財産権は、第3条第3項ないし同条第4項の検収が完了すると同時に、乙から甲へ移転する。また、乙に著作者人格権が発生する場合であっても、甲に対して行使しないものとする。
なお、細かい話ですが、ここで「著作権法27条及び28条」と触れられているのは、一度発生した著作物の二次創作に関する条項です。これらの権利だけが、著作権法上、別のカテゴリーになっており、このように契約書に明示しておかないと二次創作に関する権利だけが受託者に残ることになってしまいます。そのため委託者の立場であれば必ず著作権法27条及び28条の権利も移転することを明示しておきましょう。
第三者の権利侵害がないことの保証
これは委託者にとって重要な条項です。
動画制作は、さまざまな素材を組み合わせることが多く、悪質な業者だと他人に著作権が帰属している素材を勝手にネット上でコピペして流用する可能性があります。
このような場合、その受託業者だけではなく、委託者自身も、著作権者から著作権侵害を主張される可能性があります。
そこで、受託者に、使用している素材については他人の権利を侵害していないことを表明保証させるのです。もし表明保証に違反があった場合には、受託者が損害賠償責任を負うことになります。
第○条(保証)
1 甲は、乙に対して提供した資料が正確であり、かつ、第三者の著作権、肖像権、パブリシティ権その他一切の権利を侵害しないものであることを保証する。
2 乙は、本契約に基づく本件動画の内容等が、第三者の著作権、著作者人格権、実演家人格権、肖像権、パブリシティ権その他の権利を侵害しないことを保証する。
3 乙は、自ら及び本件動画の制作に関与した者をして、甲又は甲の指定する者に対して、著作者人格権又は実演家人格権を行使せず、行使させないものとする。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。
契約書を作成するときの注意点
動画制作物作成業務委託契約書を作成するときは以下の点に気をつけましょう。
- 仕様の確定
- 検修方法の明示
- 対価の支払い
- 動画の著作権
- 第三者の権利を侵害していないことの保証
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 中島和也先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した動画制作物作成委託契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。