この記事では、弁護士が、一般的なデータ解析業務委託契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。
データ解析業務委託契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
コールセンター業務委託契約書とは
各条項の解説をする前に、そもそもコールセンター業務委託契約書とはどのような役割をする契約書なのでしょうか。
昨今、ECの普及などにともない、コールセンターの需要が増えています。
このようなコールセンターを自社で抱えることもあれば、専門事業者に業務委託することもあります。アウトソースという言葉が使われることもありますが意味は同じです。
そして、業務委託やアウトソースは、契約書がなくても法的には有効に成立します。
しかし、契約書がないと、何の仕事を発注・受注したのか、納期はいつなのか、代金はいくらなのか、契約はどういった場合に解除できるのか、契約期間はどうなっているのか、といった、ありとあらゆることが「言った言わない」といった水掛け論になってしまい、非常にリスクが高いです。
また、コールセンターでは、個人情報保護法に定める個人データを取り扱う可能性が高いです。そして、個人データの取り扱い委託にあたっては、その委託先の管理に関して、契約書を締結することが強く推奨されています。
委託契約の締結
個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-4(2)
委託契約には、当該個人データの取扱いに関する、必要かつ適切な安全管理措置として、委託元、委託先双方が同意した内容とともに、委託先における委託された個人データの取扱状況を委託元が合理的に把握することを盛り込むことが望ましい。
そのため、コールセンターの業務委託にあたっては、必ず契約書を準備するようにしましょう。
各条項の解説
委託するコールセンター業務内容の特定
まず、委託するコールセンター業務の内容をできるかぎり特定しましょう。
どの程度の工数を依頼することになるのか、対応時間帯、土日祝の対応の有無、超過料金の有無など、コールセンター外注業者側でさまざまなルールを定めているはずですので、しっかりと協議をして内容を確定させていきましょう。
委託者受託者間で議論を重ねる過程で、外注内容についての仕様書を作成し、これを別紙として添付し特定することも有用です。
第○条(委託業務)
1 甲は、乙に対し、以下の業務(以下「本業務」という。)を委託し、乙は、これを受託する。
(1)コールセンターにおける電話対応業務
(2)その他付帯業務
2 本業務の開始日及び具体的内容については、甲乙間で別途協議の上、書面にて作成される作業仕様書において確定するものとする。
契約期間
コールセンター業務は基本的に継続契約になりますので、契約期間や、どのような場合に中途解約ができるか、中途解約の予告期間はどの程度かなど具体的に規定しておきましょう。
第○条(契約期間)
1 本契約の有効期間は、○ヶ月間とする。ただし、有効期間満了日の○ヶ月前までに当事者の一方から他方に対し本契約の更新を拒絶する旨の通知が到達しないときは、本契約はさらに同一期間更新されるものとし、以後も同様とする。
2 前項にかかわらず、甲及び乙は、相手方に対して○ヶ月以上の予告期間を定めて書面にて通知することにより、本契約を将来に向かって解約することができる。
委託料
業務委託料が定額の場合はその内容、計算方法を定める場合はその計算方法、振込手数料の負担や支払い期日、期中解約の場合の日割り精算の考え方など、できるだけ具体的に記載しましょう。
たとえば次のような条項が考えられます。
第○条(委託料)
1 甲は、乙に対し、本業務の対価として、本業務の開始日から本契約の終了まで、下記の月額料金を支払う。なお、本業務の開始日及び本契約の終了が月の途中であっても日割り計算は行なわない。
記○円(税込)
2 甲は前項に定める委託料を当月の末日限り、乙の指定する銀行口座に振り込んで支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。
報告義務
コールセンターは個別の案件に対応して終わり、ではなく、今後の商品開発やサービス開発についてのヒントを得られる宝の山ともいえます。
そこで、一定の形で外注業者側に報告書を作成させ、報告書を納品させることが、委託者側にとっては有用です。
その場合の報告サイクルや報告方法についても契約書で特定しておくと便利でしょう。
第○条(報告義務)
1 乙は、甲に対し、本業務の毎月の遂行状況について、翌月5日までに作業仕様書に定める方式に基づき報告する。
2 前項にかかわらず、乙は、本業務の遂行に支障を来すおそれのある事由が生じた場合、又は、甲に損害を生じさせるおそれのある事由が生じた場合は、直ちに甲に報告するものとする。
3 甲は、本業務の具体的な実施状況について特に確認する必要があると判断したときは、乙に対し、その必要性を明示した上で個別に報告を求めることができる。
再委託を許すか否か
コールセンターでは必然的に顧客の個人情報を取り扱うことから、再委託を禁止する規定をおくことが委託者のリスクヘッジになります。
再委託を禁止する定めを置かなければ、原則として、再委託はフリーハンド(受託者の自由)となってしまいます。
全面的に禁止するのではなく、委託者の事前の了承があった場合に限り再委託を許すという規定もよく見受けられます。
第○条(再委託の制限)
乙が本委託の全部又は一部を第三者に委託する場合は、再委託契約の内容をあらかじめ明らかにして、甲の事前の書面による承諾を得るものとする。この場合、乙は、本契約上の乙と同等の義務を再委託先である第三者に負わせるものとする。ただし、乙の本契約上の義務は、再委託によって何ら軽減されるものではない。
個人情報の取り扱い
コールセンターでは必然的に顧客の個人情報を取り扱うことになり、これが個人情報保護法上の「委託」に該当することが一般的であることから、委託先の監督に関して個別の条項を設けておくことが委託元にとって有用です。
たとえば次のような文言が考えられます。
第○条(個人情報の保護)
1 乙は、本契約の履行に際して知り得た甲が保有する個人情報(以下「個人情報」という。)を法令、官庁の定めるガイドライン及び甲の指示に従い善良な管理者の注意をもって管理し、甲の書面による事前の承諾を得ることなく、本契約の履行以外の目的に利用、第三者への開示、漏洩を行ってはならない。
2 乙は、個人情報の目的外利用、漏洩、紛失、誤消去、改竄、不正アクセス等が生じないように必要な措置を取らなければならない。
3 甲は、甲が必要と判断した場合には、乙による前項に定める義務の履行状況につき監査することができる。
4 乙は、個人情報に関して第三者から開示等の請求、苦情もしくは問い合わせを受けた場合、又は本条に違反しもしくはそのおそれがある場合には、直ちに甲に報告し、甲の指示を受けなければならない。
5 乙は、本契約が終了した場合又は甲が要求した場合には、甲の指示に従い、個人情報が含まれる紙媒体又は電子媒体を直ちに甲に返還し、消去し、廃棄する。
6 個人情報に接した乙の従業員等が退職する場合には、退職後の秘密保持義務について当該従業員との契約書又は誓約書で明らかにしなければならない。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。
コールセンター業務委託契約書を作成するときに気をつけること
以上、コールセンター業務委託契約書を作成するときに気をつけるべきことは、
- 委託するコールセンター業務内容の特定
- 契約期間
- 委託料
- 報告義務
- 再委託を許すか否か
- 個人情報の取り扱い
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 中島和也先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用したコールセンター業務委託契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。