この記事では、弁護士が、一般的なライター業務委託契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。
ライター業務委託契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
ライター業務委託契約書とは
各条項の解説をする前に、そもそもライター業務委託契約書とはどのような役割をする契約書なのでしょうか。
出版や編集、ブログなどの各種文字媒体の世界では、さまざまな仕事が「業務委託」で行われています。アウトソースという言葉が使われることもありますが意味は同じです。
そして、業務委託やアウトソースは、契約書がなくても法的には有効に成立します。
その意味で、文字媒体の制作に関する契約書は「法的に必ず作らなければいけないもの」ではありません(なお、ギグワーカー・フリーランス保護の目的で、契約書やそれに準じる書面の作成義務を委託者に課す法律の制定が議論されていますが、ここではこれ以上は触れません。)。
しかし、契約書がないと、何の仕事を発注・受注したのか、納期はいつなのか、代金はいくらなのか、契約はどういった場合に解除できるのか、契約期間はどうなっているのか、といった、ありとあらゆることが「言った言わない」といった水掛け論になってしまい、非常にリスクが高いです。
特に高額の案件で契約書がないと、トラブルになったときに致命的です。
そこで、トラブルが起きたときにも万全の対応ができるように、文字媒体の制作に関しても業務委託契約書を準備することが強く推奨されます。とくに高額の受託案件では必ず契約書を準備するようにしましょう。
各条項の解説
仕様の確定
単純に「記事執筆」と依頼するだけだと、それがどのような内容のものか、長さはどれくらいのものか、文字数、どのような構成のものか、本数など、ありとあらゆることが解釈に委ねられてしまいます。
そこで、案件を受けるにあたっては、はじめにクライアントとの間で、できるだけ納品する記事の仕様については、具体的な協議を行い、これをドキュメントに落とし込んでおくことが有効です。
そして、そのドキュメント(仕様書などと呼びますが名称は自由です)を、契約書の別紙として添付することで、どのような動画制作を受注したのか、明確にすることができるようになります。
GoogleDriveのURLなどで特定することも可能ですが、URLは後日変わってしまう可能性がありますので、紙媒体やPDFで添付しておくのが安全です。
契約書本体の記載としては、たとえば次のような文例が考えられます。
第○条(委託業務)
1 甲は、乙に対し、記事執筆業務(以下「本業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
2 本業務の具体的内容については、別途仕様書においてこれを定める。
検修方法の明示
記事制作案件の場合、検修の方法について適切な規定をおきましょう。
とくに請負形式では、仕事が完成しないと、報酬(の満額)が発生しないという形態が一般的です。
どのような場合が仕事の「完成」になるのかを、検修の方法という形で具体的に定義しておくのです。
ここでは、記事を納品し、一定期間以内に仕様書と内容に齟齬がないかクライアントに確認させ、問題ない旨の通知があれば検修完了、という文例を紹介します。
さらに、通知がない場合であっても、一定期間が経過した場合には通知があったものとみなす規定をおくことによって、検修をクリアすることができます。
第○条(検査)
1 乙は、本業務の成果物(原稿データ、写真データその他付属ドキュメント等。以下「本件目的物」という。)を、個別の業務ごとに定める締切日までに完成させた上で、甲乙協議の上定める方法により甲に引き渡して納入する。
2 甲は、前項による本件目的物の納入後直ちに本件目的物の内容を確認する。
3 前項の確認の結果、本件目的物に、種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しない状態(以下「契約不適合」という。)がないと認めた場合、甲は、乙に対し、受領書を交付する。本件目的物に契約不適合がある場合は、甲は、その旨を乙に対して通知するものとし、乙は、当該契約不適合を甲の指示する期間内に修正の上、再度納入するものとし、納入後の手続は本条第2項以下の規定を適用する。
4 前項による本件目的物の契約不適合の修正が、第2条第3項に定める委託料の支払期日までに完了しないときは、甲は、当該修正が完了するまで委託料の支払を停止することができる。
対価の支払い
どのような条件で、いつ、いくらが報酬として支払われるのかについて、明示しておきましょう。
振込先口座や振込手数料の負担についても明示しておくと安心です。
税別税込についてもトラブルになりやすい部分なので、必ず明記するようにしましょう。
第○条(委託料)
1 甲は、乙に対し、本業務の対価として、下記の料金を支払う。
記
1文字あたり○円(税込)
2 本業務の遂行に際し、交通費等特段の費用を要する場合は、その費用負担については、個別の業務ごとに甲乙協議の上で定める。
3 甲は、前各項に定める委託料を、第4条により成果物が納入された月の翌月末日までに、乙の指定する銀行口座に振り込む方法によって支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。
記事の著作権
納品した記事の著作権が誰に帰属するかについて、特に何も定めを置かなければ記事を執筆した人(著作者)に帰属することになります。
しかしこれでは発注者側が不便なので、最終的には発注者に著作権が帰属する、あるいは、著作権はライターに残るが発注者は自由に著作物を利用することができるといった定めをおきます。
ここでは代金の支払いをもって著作権が発注者に移転するタイプの文例をご紹介します。
第○条(権利帰属)
1 本業務に基づき作成された本件目的物に関する著作権その他の権利(著作権法第27条及び第28条に基づく権利を含む。)については、第4条の検査完了と同時に乙から甲に譲渡されるものとする。
2 乙は、本件目的物についての著作者人格権を行使しない。
なお、細かい話ですが、ここで「著作権法27条及び28条」と触れられているのは、一度発生した著作物の二次創作に関する条項です。これらの権利だけが、著作権法上、別のカテゴリーになっており、このように契約書に明示しておかないと二次創作に関する権利だけが受託者に残ることになってしまいます。そのため委託者の立場であれば必ず著作権法27条及び28条の権利も移転することを明示しておきましょう。
第三者の権利侵害がないことの保証
これは委託者にとって重要な条項です。
記事制作は、さまざまな素材を組み合わせることが多く、悪質なライターだと他人の文書をを勝手にネット上でコピペして流用する可能性があります。
このような場合、そのライターだけではなく、委託者自身も、著作権者から著作権侵害を主張される可能性があります。
そこで、受託者に、使用している素材については他人の権利を侵害していないことを表明保証させるのです。もし表明保証に違反があった場合には、受託者が損害賠償責任を負うことになります。
第○条(保証)
乙は、本件目的物が全て乙又は乙からの再委託者の創作により作成されたものであって、その全ての権利は乙又は再委託者に原始的に帰属するものであると共に、再委託者の作成にかかる著作物の権利は適法に乙が取得したものであること、及び、本件目的物が第三者の著作権その他の権利を侵害するものではないことを保証する。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。
ライター業務委託契約書を作成するときに気をつけること
以上、ライター業務委託契約書を作成するときに気をつけるべきことは、
- 仕様の確定
- 検修方法の明示
- 対価の支払い
- 記事の著作権
- 第三者の権利を侵害していないことの保証
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 中島和也先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用したライター業務委託契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。