この記事では、弁護士が、一般的な契約社員向けの雇用契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。
契約社員向けに雇用契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
契約社員向けの雇用契約書とは
正社員向けの雇用契約書に関しては以下の記事で紹介していますので、本記事では契約社員向けに必要な事項に絞って解説していきます。
まず、「契約社員」ということばですが、これは法律上の用語ではなく、人によって意味するニュアンスが若干異なることがあります。
一般的には、期間の定めがない雇用契約(正社員)と対比する意味で用いられており、期間の定めがある雇用契約によって雇われた社員のことを、契約社員と呼んでいます。
どちらも「契約」によって雇用されているので、少々不思議な略語ですが、契約社員という言葉が定着しているので、本記事でも期間の定めのある雇用契約によって雇用されている従業員を契約社員と呼びます。
以下では、正社員向けの雇用契約との差分に絞って各条項の解説をしていきます。
各条項の解説
契約期間
正社員の雇用契約書との最大の違いは、契約期間の定めがあることです。
契約期間に関しては、年月日を記入し、いつから始まり、いつ終了するのか、一読して理解できるようにしましょう。
また、期間の定めのある契約ですので、原則として更新がないことについても、双方に疑義が生じないために明記しておくことを推奨します。業務委託契約に慣れている方は、自動更新条項を見慣れていると思いますが、契約社員の場合は、期間の定めがあるとはいえあくまでも雇用契約です。雇用契約の一方的な解約(解雇)については、業務委託契約と異なり労働基準法、労働契約法に基づく厳格なルールが適用されることになりますので、安易に更新についての定めをおくべきではありません。また更新についての定めをおくと、実質的に期間の定めのない契約ではないかとみなされる恐れもあるので注意が必要です。
仮に更新について記載するとしても、以下の例文のように、あくまでも双方の合意により、別途新しい契約が締結されなければ更新されない旨を明記しておきましょう。
第○条(契約期間)
1 本契約の期間は、下記の期間(以下「雇用期間」という。)とする。
記○年○月○日から○年○月○日まで
2 前項の規定にかかわらず、雇用期間の満了に際して、甲が従事している業務の進捗状況、甲の担当部門及び関連部門の業務量、乙の経営状況、甲の勤務成績、態度、能力等を考慮して本契約を更新することが適切であると乙が認めた場合、乙は、甲と合意して本契約を更新することができる。この場合、甲と乙は新たに契約書を締結することを要するものとし、新たな契約書が締結されない限り、本契約は更新されないものとする。
就業規則の(一部)適用除外
就業規則を制定している会社では、就業規則の内容は、原則として正社員に適用されることを前提として設計されていることが多いかと思います。
そのため、正社員にはあてはまるが、契約社員には当てはまらない事項については、契約で適用されない旨を明示しておく必要があります。
たとえば典型的な事項として、退職金が挙げられます。長年勤め上げた正社員に対して支払われることが前提とされているケースが多いと思いますので、そのような場合には退職金の規定は適用されないことを明示しておく必要があります。
第○条(労働条件等)
甲の労働時間、休憩時間、時間外労働、休日、年次有給休暇などについては、乙の定める契約社員就業規則に従うものとする。なお、乙の定める契約社員就業規則第〇〇条に規定されたとおり、本契約が法律の定めに従って期間の定めのないものに転換された場合においては、定年が適用されるものとする。ただし、乙の定める正社員就業規則第〇〇条に定める退職金は適用されないものとする。
雇用の終了に伴う措置(引き継ぎなど)
契約社員との雇用契約は、短期間で終了することが想定されていますので、終了後の引き継ぎに関しても契約書に明示するようにしましょう。
世間一般で言われている「引き継ぎ」は、労働法上、従業員に強制できる事柄ではないため、契約書において具体的にどのような引き継ぎの義務が発生するのかを記載しておくと安心です。
たとえば次のような文例が考えられます。
第○条(雇用の終了に伴う措置)
1 甲は、雇用期間の満了や解雇、退職など、雇用の終了に際し、乙の指示に従い、円滑に業務を引き継ぐものとする。
2 甲は、雇用の終了に際し、乙から貸与された物品、乙に属する書類や資料、社員証、その他乙に返還すべきものについて遅滞なく乙に返還する。
一般条項など
その他の事項については以下の記事をご覧ください。
契約社員向け雇用契約を作成するときに気をつけること
以上、契約社員向け雇用契約書を作成するときに気をつけるべきことは、
- 契約期間
- 就業規則の(一部)適用除外
- 雇用の終了に伴う措置の明示
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 三島大樹先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した契約社員向けの雇用契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。