この記事では、どんな契約書にも共通して含まれている「一般条項」について、それぞれの条項ごとに詳しく説明しています。契約書を作成する時も、読む時にも、知っておくと役に立つポイントを、要点を押さえて解説しています。
一般条項とは
まず、契約書における「一般条項」とは「どんな契約書にも共通して必要になる条項」のことです。
たとえば、トラブルが起きたときに、どの裁判所で裁判をするか、といったことは「管轄」の条項に専属管轄裁判所を記載します。これは、どんな契約書でも共通して必要になってきます。
このようなことを覚えておけば、契約書を読むたびに、さっと理解できるので、スムーズに読み進めることができるようになります。契約書を作成するときも、繰り返し出てくる内容なので、この記事を通して、ぜひマスターしてください。
一般条項の解説
では、一般条項の具体的な内容を条文ひな形付きで解説していきます。
契約期間
継続的な契約を締結する場合には、契約期間を定める必要があります。もし契約期間が定められていなければ、その契約いつ終了するのか、どのような理由で終了するのか、解釈問題が発生してしまいます。永遠に続く契約としてしまうと、公序良俗に反するものとして無効になる可能性もあります。
そこで、たとえば次のような一般条項を記載します。
第○条(有効期間)
本契約の有効期間は、○年○月○日から○年○月○日までの○年間とする。
自動更新条項
ただし、継続的な契約だと、「いつ終わるか予測が難しい」ということも多いと思います。そこで、長期に渡って継続する予定ではあるが、いつ終わるかがわからない、という場合は、自動更新条項を追加して、終了の通知がない限り同一期間継続する、という形にします。
第○条(有効期間)
1 本契約の有効期間は、○年○月○日から○年○月○日までの○年間とする。
2 期間満了の1ヵ月前までに甲又は乙のいずれからも相手方に対する書面の通知がなければ、本契約は同一条件でさらに同一期間更新されるものとし、以後も同様とする。
中途解約条項
先程説明したのは、契約期間が満了するタイミングで、更新するかしないかに関する条項でした。
他方で、契約期間満了のタイミングではなく、当事者が求めたときにはいつでも解約ができるようにしたい、というニーズがある契約類型もあります。
このような場合には、いつでも中途解約ができるように、中途解約条項を入力することがあります。
ただし、無制限に中途解約がされると困る場合には、中途解約の場合のペナルティ(違約金や損害賠償)を記載することになります。
以下のひな形条文は、特にペナルティを設けずに中途解約ができるようにする場合の条項です。
第○条(中途解約)
甲又は乙は、本契約の有効期間中であっても、相手方に対して○日前までに書面で通知することにより、本契約を中途解約することができる。
期限の利益の喪失
「期限の利益」は法律の専門用語のため、その言葉からは少し意味がわかりにくいかもしれません。
たとえば、お金の貸し借りをする金銭消費貸借契約であれば、借主が借りたお金を約定の弁済期日まで返済しなくても良いこと、これが「期限の利益」です。決められた期限までに、債務者が受ける利益が、「期限の利益」です。
では期限の利益の「喪失」がどういう意味かというと、一旦債務者に与えた期限の利益について、債務者の契約違反や急激な信用悪化などの事態が生じたときに、その期限の利益を取り上げるということです。
たとえば、先程の貸金の例でいえば、債務者と連絡が取れなくなったなどの信用悪化事態が生じたときに、期限の利益が喪失し、一気に貸金の弁済期限が到来する、といった形で規定されます。
期限の利益の喪失については、実は契約書に記載をしなくても、民法という法律に基づいて主張できる場合もあります。
民法
(期限の利益の喪失)
第百三十七条 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
ただし、破産した場合、担保に入れたものが毀損した場合など、かなり限定的なので、これだけでは足りないという場合はもう少し期限の利益が喪失する事由を増やして、ちゃんと契約書に記載するようにしましょう。
具体的には次のような条文が考えられます。
第○条(期限の利益の喪失)
乙について次の各号の事由が一つでも生じた場合には、甲からの通知催告等がなくても乙は当然に期限の利益を失い、直ちに甲に対し、残債務全額を一括して支払う。
(1)本契約に基づく債務を履行しなかったとき。
(2)支払いの停止又は破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始もしくは特別清算の申立てがあったとき。
(3)手形交換所の取引停止処分を受けたとき。
(4)差押え、仮差押え、仮処分もしくは競売の申立て、又は公租公課の滞納処分を受けたとき。
(5)その他信用を損なう事由が生じたとき。
解除条項
どのような場合に契約を解除することができるのかを定めるのが解除条項です。
解除は、先程説明した契約の有効期間満了に伴う契約終了とはことなり、どちらかに契約違反などの不義理があった場合に、一方からの意思表示によって強制的に契約を終了させるというものです。
解除については、実は民法にもたくさん規定があり、契約書に解除条項がないとしても、一定の場合には契約解除をすることができます。
ただし、民法の契約解除は、原則として、一回催告を入れることが必要になります。
民法
(催告による解除)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。(以下略)
要するに、①履行の催告をした上で、しばらく期間を開けてから②解除通知を送るということで、2回通知をすることが前提となっており、このままでは少々使い勝手が悪いです。
そこで、契約書で、「こういった場合であれば催告を入れずに即時解除ができる」という定めをしておくと、便利なわけです。
たとえば、次のような条文が考えられます。
第○条(契約の解除)
甲又は乙は、相手方が次の各号のいずれか一つに該当したときは、何らの通知、催告を要せず、直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
(1)本契約に定める条項に違反し、相手方に対し催告したにもかかわらず10日以内に当該違反が是正されないとき
(2)監督官庁より営業の許可取消し、停止等の処分を受けたとき
(3)支払停止若しくは支払不能の状態に陥ったとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき
(4)第三者より差押え、仮差押え、仮処分若しくは競売の申立て、又は公租公課の滞納処分を受けたとき
(5)破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てを受け、又は自ら申立てを行ったとき
(6)解散、会社分割、事業譲渡又は合併の決議をしたとき
(7)資産又は信用状態に重大な変化が生じ、本契約に基づく債務の履行が困難になるおそれがあると認められるとき
(8)その他、前各号に準じる事由が生じたとき
反社会的勢力の排除
反社会的勢力とは、暴力団やヤクザなどのことです。
これらの反社会的勢力となんらかの関わりを持っていることが判明した場合、ただちに契約を解除することができ、さらに損害賠償まで請求できるとするのが、一般的な反社会的勢力の排除条項です。
特にコンプライアンスについてハードルの高い上場企業と取引をするときは確実に挿入を求められますし、上場企業でないとしても昨今のコンプライアンス意識の高まりから中小企業でも反社排除条項を挿入することは一般的になりました。
一般論としては挿入してデメリットがあるものではないので是非契約書ひな形に挿入しましょう。
たとえば次のような文言が考えられます。
第○条(反社会的勢力の排除)
1 甲及び乙は、自己が反社会的勢力(暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団、その他これらに準ずる者をいう。以下同じ)に該当しないこと、及び次の各号のいずれにも該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを保証する。
(1)反社会的勢力が経営を支配していると認められる関係を有すること
(2)反社会的勢力が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
(3)自己、自社もしくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に反社会的勢力を利用していると認められる関係を有すること
(4)反社会的勢力に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
(5)役員又は経営に実質的に関与している者が反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有すること
2 甲及び乙は、自ら又は第三者を利用して以下の各号の一にでも該当する行為を行わないことを表明し、保証する。
(1)暴力的な要求行為
(2)法的な責任を超えた不当な要求行為
(3)対象取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為
(4)風説を流布し、偽計又は威力を用いて相手方の名誉・信用を毀損し、又は相手方の業務を妨害する行為
(5)その他前各号に準ずる行為
3 甲及び乙は、前二項の規定に反する事項が判明した場合、直ちに相手方にその事実を報告するものとする。
4 甲及び乙は、相手方が本条に違反した場合、催告その他何等の手続きを要することなく、直ちに基本契約、個別契約の名称を問わず、相手方との間で締結した全ての契約の全部又は一部を解除することができるものとする。
5 甲及び乙は、前項に基づき相手方との契約を解除した場合、これにより被った損害の賠償を相手方に請求できるものとする。
損害賠償
契約違反があった場合の損害賠償については、契約書に定めがなくても、民法に基づいて相手方に請求が可能です。
民法
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。(以下略)
ただし民法の原則だけだと、どこまでの損害を請求できるのか、解釈の余地が多く、争いになることもあります。
そこで契約書で、どこまでの損害賠償を請求できるのか、制限をかけることで、ビジネスのリスクヘッジを図ることがあります。
たとえば次のような条項が考えられます。
第○条(損害賠償)
甲又は乙は、本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合には、相手方に対しその損害を賠償しなければならない。ただし賠償の範囲は相手方に直接及び現実に発生した損害に限る。
ここから更に進んで、賠償「額」の上限を設定することもあります。
どこまでどのような制限をするのか、しないのか、は、契約の性質や、契約者が置かれている立場によって変わってきますので、慎重な確認が必要な部分です。
秘密保持
秘密保持条項については、別途秘密保持契約(NDA)を締結する場合もありますが、NDAは締結せずに、契約書の中に秘密保持条項を挿入するだけで済ませる場合もあります。
ここでも、秘密保持契約書に関する解説で説明したとおり、どんな情報を秘密情報にするのか、秘密保持義務をどの期間存続させるのか、といったことを慎重に定める必要があります。
契約書の中に一般条項として秘密保持条項を挿入する場合の文例は、たとえば以下のようなものです。
第○条(秘密保持)
1 受領者は、開示者から開示を受けた秘密情報及び秘密情報を含む記録媒体若しくは物件(複写物及び複製物を含む。以下「秘密情報等」という。)を、善良なる管理者としての注意義務をもって厳重に保管、管理し、開示者の事前の書面による承諾なしに第三者に対して開示又は漏えいしてはならない。受領者が秘密情報等を第三者に開示する場合には、書面(電磁的方法を含む。)により開示者の事前承諾を得なければならない。この場合、受領者は、当該第三者に本契約書と同等の秘密保持義務を負わせ、これを遵守させる義務を負うものとする。
2 前項の規定にかかわらず、受領者は、法令又は裁判所、監督官庁その他受領者を規制する権限を有する公的機関の裁判、規則若しくは命令に従い必要な範囲において秘密情報等を公表し、又は開示することができる。ただし、受領者は、かかる公表又は開示を行った場合には、その旨を遅滞なく開示者に対して通知しなければならないものとする。
3 受領者は、秘密情報等の漏えい、紛失、盗難、盗用等の事態又はそのおそれがあることを知った場合は、直ちにその旨を開示者に書面をもって通知しなければならない。4 本条の規定は、本契約終了後も○年間、引き続き効力を有する。
個人情報の取扱い
契約相手に顧客の個人情報の取り扱いを委託する可能性がある契約においては、委託先に個人情報を適切に管理することを義務付ける条項が必要になります。
これは、個人情報保護法に基づき、委託先を監督する義務が課せられているためです。
個人情報保護法
(委託先の監督)
第二十五条 個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
そこで、たとえば次のような条項を挿入することになります。
第○条(個人情報の保護)
1 乙は、本契約の履行に際して知り得た甲が保有する個人情報(以下「個人情報」という。)を法令、官庁の定めるガイドライン及び甲の指示に従い善良な管理者の注意をもって管理し、甲の書面による事前の承諾を得ることなく、本契約の履行以外の目的に利用、第三者への開示、漏洩を行ってはならない。
2 乙は、個人情報の目的外利用、漏洩、紛失、誤消去、改竄、不正アクセス等が生じないように必要な措置を取らなければならない。
3 甲は、甲が必要と判断した場合には、乙による前項に定める義務の履行状況につき監査することができる。
4 乙は、個人情報に関して第三者から開示等の請求、苦情もしくは問い合わせを受けた場合、又は本条に違反しもしくはそのおそれがある場合には、直ちに甲に報告し、甲の指示を受けなければならない。
5 乙は、本契約が終了した場合又は甲が要求した場合には、甲の指示に従い、個人情報が含まれる紙媒体又は電子媒体を直ちに甲に返還し、消去し、廃棄する。
6 個人情報に接した乙の従業員等が退職する場合には、退職後の秘密保持義務について当該従業員との契約書又は誓約書で明らかにしなければならない。
譲渡禁止条項
契約に基づいて発生する債権や債務は、実は、今の法律では、第三者に対して自由に譲渡することができます。
たとえば、業務委託契約で、報酬を受け取る権利(報酬債権)を、ファクタリング業者に売却して、割引後の代金を早期受領するといったことは、日常的に行われています。
他方で、このように契約上の債権や債務がいつでも自由に譲渡できてしまうと、せっかく相手を信頼して契約したのに、別の第三者が契約相手になってしまうなど不都合が生じます。
そこで、契約書の中で、債権債務や契約上の地位を譲渡してはいけない、と定めることがあります。
たとえば次のような条文が考えられます。
第○条(権利義務譲渡の禁止)
甲及び乙は、相手方による事前の書面による承諾を得ずして、本契約により生じた権利義務の全部又は一部を第三者に譲渡、承継又は担保に供してはならないものとする。
存続条項
秘密保持契約の解説でも触れましたが、契約終了後にも特定の条項の効力を残しておく条項です。
典型的なのが、秘密保持義務です。
取引終了後も○年間は、秘密保持義務を継続する、といった形で利用されます。
その他にも、損害賠償の制限条項や、後述の裁判管轄に関する条項など「後日揉めたときに便利な条項」だけをくくりだして、一定の期間存続させることができます。
これを「永遠」にしたがるケースが散見されますが、永遠に続く契約は裁判所で無効とされる可能性があるので、現実的な期間(数ヶ月〜10年程度)の中で、ケースに応じて存続期間を設定しましょう。
たとえば、次のような条項が考えられます。
第○条(存続条項)
本契約が終了した場合、その終了理由の如何にかかわらず、第○条(秘密保持)、第○条(著作権の取扱い)、第○条(著作権以外の知的財産権の取扱い)、第○条(個人情報の取扱い)、第○条(反社会的勢力の排除)、第○条(損害賠償)、第○条(準拠法)及び第○条(管轄)の規定は、なお有効に存続する。
紛争解決条項(合意管轄)
トラブルが起きたときにどのような方法で、どこの裁判所で紛争を解決するかを事前に定めておく条項です。
定めておかない場合は、民事訴訟法に基づいて裁判所が決定されることになりますが、「民事訴訟法に基づいて決まる」と言われても弁護士などの専門家出ない限りどの裁判所を使うか判断が非常に難しいです。
そこで、当事者にとって便利な、最寄りの裁判所をあらかじめ定めておくことで、万が一裁判沙汰になった場合のリスクを軽減することができます。
たとえば、次のような条項が考えられます。
第○条(管轄)
本契約に関する紛争については大阪地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。
締結方法
条文では有りませんが、契約書には、最後に締結の方法について記載するのがマナーになっています。
これまでは、紙媒体で締結するのが一般的でしたが、ここ数年で電子契約による締結が一気に広まっています。
それぞれの場合の文例を記載します。
なお、締結方法については、「第○条」とするのではなく、契約書末尾に条文番号無しで記載するのが通例です。
(紙媒体の場合)
本契約締結の証として、本書を二通作成し、両者署名又は記名捺印の上、各自一通を保有する。
(電子契約の場合)
本契約の成立を証するため、本書を電子的に署名の上、各自保管する。
一般条項を作成するときに気をつけること
以上のとおり、契約書には、一般条項だけでもかなりの数・分量があります。今回の記事で取り上げていない一般条項もまだまだ存在します。
他方で、これをすべて一律に、ありとあらゆる契約書に定めなければいけないわけではありません。
それぞれの契約書の性質や内容に応じて、どの一般条項を挿入するのか・しないのかを個別に判断していくことになります。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形を利用しました。KIYACを使えばこれらの一般条項が個別にカスタマイズされて、各種ひな形に挿入されていますので大変便利です。手元に良い契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。