「3日前にも同じ商品を注文していたけどすぐにキャンセルされた」
「何度も注文とキャンセルを繰り返してくる」
「もうこの顧客とは付き合いたくない・・・」
EC・ネットショップを運営していると、いたずらや嫌がらせで注文とキャンセルを繰り返すなど、理解不能な行動をとる顧客に遭遇することがあります。
そんなときの対処法を、弁護士が解説します。
売買契約が成立してしまうとどうなる?
ネットショップでは顧客の顔が見えないため、ある注文がいたずらや嫌がらせなのか、注文を受け付けた段階ではわかりません。
他方で、ひとたび売買契約が成立してしまうと、たとえその注文がいたずらや嫌がらせだとしても、ショップ側は商品を梱包して顧客の指定住所に発送する法的な義務を負担してしまうことになります。
もし、利用規約上、「顧客の注文を受け付けた時点で売買契約が成立する」ことになっているのであれば、ショップとしては、原則としてその注文に対応せざるを得ません。この義務をないものとするためには、顧客との売買契約を解除するしかありません。
ところが、売買契約の解除はいつでも自由にできるわけではなく、民法上、顧客に債務不履行(契約違反)があった場合でなければ解除はできません。
ネットショップの売買契約における顧客の「債務」とは代金を支払うことであり、カード決済などで先払いとなっている場合はすでに代金が支払われているので、顧客の「債務」はすでにちゃんと「履行」されており、この状態で解除をすることは難しいです。
また、着払いの場合は、まずはショップ側が商品を発送するという義務を履行しなければ、顧客に債務不履行を主張することはできないため、いやがらせ目的が推定される顧客に対してであっても、商品の発送手続きをとらなければならないことになります。
商品を発送しなければ、逆にショップ側が債務不履行を犯したことになってしまいます。
売買契約の成立時期を後ろにずらそう!
以上のとおり、ひとたび売買契約が成立してしまうと、ショップがその注文を無視することは非常に難しいです。
そこで、利用規約の出番です。
売買契約の成立時期は、当事者間の合意で自由に定めることができます。
利用規約上、顧客から注文を受け付けただけでは売買契約は成立せず、その後ショップが発送手続きをとった段階など、注文よりも後ろの段階で売買契約が成立するという形にしておけば、発送するまでの間はまだ売買契約は成立していないので、法的な解除事由を主張しなくても、ショップは悪質な顧客からの注文を断ることができるようになります。
また、万全を期すために、売買契約の成立時期を遅らせるだけではなく、たとえば「過去にキャンセル履歴が多数あるお客様からの注文はお断りすることがあります。」など、注文を受け付けないケースを具体的に列挙しておくことも、顧客の納得という観点で有用な対策になるでしょう(「ここに書いてますので」という説明が容易になります。)。
この方法については、 誤表示価格で大量注文が発生。どうしたらいい?! という記事の中でも、別の観点から紹介していますので、参照してください。
いたずらや嫌がらせが終わらない場合は?
売買契約の成立時期を後ろにずらし、顧客からの注文を断ることができたとしても、その後も継続していたずらや嫌がらせを受ける場合はどうすればよいでしょうか?
ここでも利用規約が活躍します。たとえば、いたずらや嫌がらせを繰り返す顧客については強制的に退会処分にできるよう、利用規約上で定めておくことが考えられます。
なお、いたずらの域を超え、顧客の要望が脅迫行為に及ぶような場合には、すぐに弁護士に対応を相談するようにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ショップの規模が拡大してくると、いたずらや嫌がらせなどをする悪質な顧客に一定確率で遭遇することは避けられません。
そのような場合であっても冷静に対応できるように、まずは適切な利用規約を整備しましょう。