「思っていたのと味が違うので、ちょっと食べちゃったんですけど返品させてください」
EC・ネットショップを運営していると「開封済みの食品」の返品を希望されることがあります。
これには応じる義務があるのでしょうか?開封済みであることを理由に返品を断ることができるのでしょうか?
弁護士が解説します。
なお、この記事では、商品が不良品ではない場合を前提とします。
特定商取引法が定める法定返品権とは?
返品のルールに関しては、これまで何度かにわけてご紹介してきましたが、ここで改めて整理してみましょう。
まず、EC・ネットショップ(通信販売)では、クーリング・オフは適用されません。
しかし、「法定返品権」という制度があり、利用規約や特定商取引法に基づく表示に何の記載もなければ、8日以内であれば顧客は何の理由がなくても商品を返品できます。
(通信販売における契約の解除等)
第十五条の三 通信販売をする場合の商品又は特定権利の販売条件について広告をした販売業者が当該商品若しくは当該特定権利の売買契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は売買契約を締結した場合におけるその購入者(次項において単に「購入者」という。)は、その売買契約に係る商品の引渡し又は特定権利の移転を受けた日から起算して八日を経過するまでの間は、その売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合(当該売買契約が電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律(平成十三年法律第九十五号)第二条第一項に規定する電子消費者契約に該当する場合その他主務省令で定める場合にあつては、当該広告に表示し、かつ、広告に表示する方法以外の方法であつて主務省令で定める方法により表示していた場合)には、この限りでない。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057
ただし、「法定返品権を認めない」ことを明示している場合には、法定返品権は認められません(くわしくはこちらの記事を参照)。
法定返品権を排除する方法
法定返品権を排除する方法は、排除する旨の特約を明確に記載しておくことです。
(申込みの撤回等についての特約を表示する方法)
第十六条の三 法第十五条の三第一項ただし書の主務省令で定める方法は、顧客の電子計算機の映像面に表示される顧客が商品又は特定権利の売買契約の申込みとなる電子計算機の操作を行うための表示において、顧客にとつて見やすい箇所に明瞭に判読できるように表示する方法その他顧客にとつて容易に認識することができるよう表示する方法とする。
特定商取引法施行規則 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351M50000400089
特に食品に関しては、食品衛生の観点から、法定返品権の適用を排除する特約を明示する、(顧客サービスとして)完全に排除しないとしても開封済みの商品に関しては一切返品に応じないといった記載をすることが必須と考えられます。
たとえば、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるジェネレーター「KIYAC」を使えば、返品に関する特約を自動で生成することができますので、返品特約を準備していない場合は一度試してみましょう。
法定返品権の排除特約をつけていなかった場合
事前予防策としては以上のとおりですが、返品排除特約をつけていなかった場合は、原則に従って、顧客に法定返品権が発生することになります。ここでは、いくつかのケースに従って、法定返品権がどのように発動するか、見ていきましょう。
ケース①開封済みだが食べていない場合
この場合には、原則に従って8日以内であれば返品を受け付ける義務が発生します。開封して袋が破れているからと行って法定返品権がなくなるわけではありません。
ケース②個別包装された商品の一部を食べた場合
たとえば10個入りの個別包装された食品のうち2個食べてしまった場合も、法定返品権は発生するのでしょうか。
この場合にも、特定商取引法に基づく消費者の権利は非常に強力なものであることから、法定返品権は発生すると考えるのが無難でしょう。
ただし、返金する金額については、すでに消費した分については返品を受けられていないため、その分を減額することになります。10個のうち8個しか返品されなかったのであれば、商品代金の80%を返金することになります。
ケース③個別包装されていない食品の一部を食べた場合
他方で、個別包装されていない食品の一部を食べてしまった、という場合はすでにその商品は消費された(法的には無くなってしまった)ものと考えられますので、ショップとしては法定返品権は発生しないと主張できると考えられます。さすがに、食べかけの商品を他人に販売することはできない(無価値)と考えられるからです。
ケース④商品全部を食べた場合
商品を全部食べてしまった場合は、法定返品権は発生しません。商品がすでに消費されており、返品するものが存在しないからです。
返品にあたって返金は必要か
法定返品権に基づき商品が返品された場合、商品代金は返金する必要があります。
これは、法定返品権の発動により、売買契約が法定解除されるからです。
なお、上記ケースにあったように、一部返品となる場合には割合的に代金を返金することが考えられます。
返品の受付方法は?
返品の受付方法について、サイトや規約に何も定めていなかった場合、消費者の希望に従って任意の対応をする必要が生じます。こちらにとって手間のかかる方法で返品を求めてくることも考えられるため、できる限り返品特約の中で返品の対応方法について明確に記載しておきましょう。
たとえば、連絡方法はメールに限る、各種費用は購入者負担とする、送付先住所情報など、詳細に定めておくと、これらは契約として効力を有しますので、消費者は記載通りに対応することになります。
返品時に発生する費用は誰が負担する?
顧客が法定返品権に基づいて商品を返送する際「送料はショップ持ちで」と主張されたら、どうしますか?
これについては、実は、法定返品権を行使する場合の送料は、顧客負担であることが法律に明確に記載されています。どんな理由でも返品を認める代わりに、せめて送料は消費者側で負担せよ、ということですね。
(通信販売における契約の解除等)
特定商取引法 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351AC0000000057
第十五条の三
2 申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は特定権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、購入者の負担とする。
顧客サービスとしてどこまで対応するかはさておき、原則が顧客負担であることを理解した上で対応に臨みましょう。
ただし、顧客が上記の特定商取引法の条文を知っているとはまず考えられません。そのため、何も記載をしていなければ「送料は事業者持ちで」と主張され、水掛け論が続いてしまう可能性もあります。
そのため、法律に送料の負担が明記されているとしても、かならず返品特約等で送料の負担が消費者側であることを明記しておきましょう。
返品後の処理はどうする?
返品された商品を再販売するか、処分するか、その判断は事業者の自由です。
ただし今回テーマとして取り上げた食品に関しては、食品衛生の観点から破棄せざるを得ないでしょう。
破棄に要する費用については、上記の特定商取引法の規程は適用されず、事業者の負担となります。
まとめ
以上の記事をまとめます。
- 顧客には8日以内であれば、原則として法定返品権が発生する
- ただし特約で法定返品権は排除することができる
- 販売時に特約を定めていなかった場合は、原則に従って返品対応する必要がある
- 返品に要する送料などの費用は顧客負担であることが法律に書かれているが、顧客周知の観点でも送料負担についても特約に明記しておくことが無難
返品特約の準備ができていない場合、たとえば、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるジェネレーター「KIYAC」を使えば、返品に関する特約を自動で生成することができますので、一度試してみましょう。
返品特約を整備して、安心して食品のEC販売を行いましょう。