「ちょっとこの靴、サイズが合わないので、開封済みなんですけど返品してもいいですか?」
「思っていたのと味が違うので、ちょっと食べちゃったんですけど返品させてください」
EC・ネットショップを運営していると「開封済みの商品」の返品を希望されることがあります。
これには応じる義務があるのでしょうか?開封済みであることを理由に返品を断ることができるのでしょうか?
弁護士が解説します。
まずは返品のルールを確認しよう
返品のルールに関しては、これまで何度かにわけてご紹介してきましたが、ここで改めて整理してみましょう。
まず、EC・ネットショップ(通信販売)では、クーリング・オフは適用されません。
しかし、「法定返品権」という制度があり、利用規約や特定商取引法に基づく表示に何の記載もなければ、8日以内であれば顧客は何の理由がなくても商品を返品できます。利用規約や特定商取引法に基づく表示において「法定返品権を認めない」ことを明示している場合には、法定返品権は認められません(くわしくはこちらの記事を参照)。
商品が不良品であった場合には「契約不適合責任」(昔は瑕疵担保責任と呼ばれていました)が発生し、顧客には商品の交換や修補を求める権利が発生します(くわしくはこちらの記事を参照)。
不良品であった場合にも一切責任を負わない(ノークレーム・ノーリタン)という、契約不適合責任を排除する特約を設定したとしても、一般消費者との関係ではその特約は無効になります(くわしくはこちらの記事を参照)。
開封済みの場合はどうなる?
では、開封済みの商品の場合、上記の返品ルールはどのように発動するでしょうか?
まず、法定返品権については、開封したことを理由に権利行使できなくなるわけではありません。特約で法定返品権の適用を排除していない限り、到着から7日以内であれば開封済みの商品であっても法定返品権の行使は認められます。
もちろん、特約でそもそも法定返品権を排除しておけば、開封済みか否かにかかわらず、法定返品権は発生しないので、返品はお断りできます。
商品が不良品であった場合は、開封済みか否かに関わらず契約不適合責任が発生しますので、ショップには商品の交換や修補に応じる義務が発生します。
食品の場合はどうなる?
では、食品のように、消費してなくなってしまうものの場合はどうでしょうか?
たとえば10個入りの個別包装された高級チョコレートを開封し、2個食べてしまった場合も、返品に応じなければ行けないケースがあるのでしょうか?
この場合にも、法定返品権が認められなくなるわけではありません。ただし、返金する金額については、すでに消費した分については返品を受けられていないため、その分を減額することになります。10個のチョコレートのうち8個しか返品されなかったのであれば、商品代金の80%を返金することになります。
他方で、個別包装されていない食品の一部を食べてしまった、という場合はすでにその商品は消費された(法的には無くなってしまった)ものと考えられますので、ショップとしては法定返品権は発生しないと主張できると考えられます。
いずれにせよ、特に食品に関しては、食品衛生の観点から、法定返品権の適用を排除する特約を明示する、完全に排除しないとしても開封済みの商品に関しては一切返品に応じないといった記載をすることが必須と考えられます。
なお、商品が不良品であった場合(賞味期限が切れていた、食中毒が発生した等)には、一部消費済みであっても、契約不適合責任に基づき、新しい商品と交換、交換ができない場合は商品代金全額の返金をする必要があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
まずは返品に関する基本的なルールを押さえた上で、開封済みのパターンにも落ち着いて対応できるよう準備しましょう。