弁護士が教える秘密保持に関する誓約書(従業員向け)の作り方

この記事では、弁護士が、従業員から入社時に会社に提出させる、秘密保持に関する誓約書の作り方をひな形条文つきで解説します。

秘密保持に関する誓約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。

本記事で紹介する文書はKIYACで簡単に作ることができます。

目次

秘密保持に関する誓約書とは

従業員が会社の秘密情報を漏洩してはいけないことについては、漠然と理解している人は多いと思われます。

ですが、そもそも、どこまでの情報が「秘密情報」なのか、明確に認識している人は少ないでしょう。

たとえば上司の名前は秘密情報でしょうか?

取引先の名前は?

利用しているWebサービスの名前や種類は?

このように聞かれると答えが分かれそうです。

実際に、「秘密情報」については、不正競争防止法で似た概念として「営業秘密」が定められている他には、法律上明確な定義がありません。

そのため、秘密情報の保護を従業員に義務付けるためには、まずは会社側が、何が秘密情報なのかを明確に定義する必要があります。

次に、秘密情報を定義したとしても、それを漏洩しない義務がどこまで、どの程度発生するのかについても、何も契約がなければ不明確になります。

たとえば、就業期間中に秘密保持義務が発生することは労働契約の性質から当然と解釈されていますが、退職後に秘密保持義務が発生するのかははっきりしません(一般的には、退職後には何らの取り決めもなければ秘密保持義務は消滅すると解釈されています。)。

そのため、秘密保持義務がどこまで、どの程度発生するのかについても、従業員との間で明確に契約しておく必要があります。

これらの定めを記載するのが、秘密保持に関する誓約書の役割になります。

今回は、入社時に従業員から徴収する誓約書の文例をご紹介します。

各条項の解説

誓約書とするか、契約書にするか

はじめに形式的な論点ですが、本文書を誓約書にするか、契約書にするか、という問題があります。

誓約書とは、一方から他方に対して差し入れをする文書です。差し入れる方が署名又は記名押印するだけで、受領する側は特に署名や記名押印を予定しないスタイルの文書です。

これに対して契約書は、両当事者が署名又は記名押印をするスタイルの文書です。一般的な法律文書の多くは記名押印スタイルをとっています。

今回の内容については、従業員が遵守すべき義務を記載しているだけで、企業側の義務を何らか設定するものではないため、従業員から会社に対して一方的に差し入れる誓約書とすることが簡便で良いでしょう。

なお、雇用契約書の中に、秘密情報の保護に関する事項を記載することも可能です。この場合は契約書スタイルになります。

以下の記事では雇用契約書と別途、誓約書を差し入れさせるスタイルの文例を紹介します。

誓約書提出のタイミング

誓約書の提出は入社時、在職中、退職時、いつでも構いません。

上記のとおり、秘密保持義務は、就労中は労働契約の性質から当然に発生すると解釈されていますが、退職後については基本的に存在しないものと解されています。

そのため、特に重要となるのは退職後ですが、早く徴求しておくに越したことはありませんので、今回の文例では、入社のタイミングで誓約書を提出されるパターンをご紹介します。

私は、貴社に入社するに際し、以下の事項を厳守することを誓約します。

秘密情報の定義

上記のとおり、秘密情報ということばが何を意味するのかは、法律上は明確ではありません。

そのため、誓約書の中で、当社が何を秘密保持の対象となる情報として取り扱うのかについて明確に定義しておきましょう。

第○条 私は、貴社における業務を通じて知り得た以下の情報について、一切の秘密を保持し、貴社の明示の許可なく、第三者(社外の者はもとより貴社従業者を含みます。)に対して開示し、又は自ら使用しません。
(1)貴社に入社することがなければ知り得なかった貴社、貴社取引先その他関与先に関する営業上、技術上の情報(公知のものを除く)

(2)その他貴社が特に秘密と指定した情報

秘密情報の返還

退社時に一切の秘密情報やそれが含まれる媒体を会社に返却する義務が発生することを明記しておきましょう。

具体的な定めがなければ、どこまでの情報を、どのような形で、いつまでに返還しなければいけないのか、疑義が生じることになります。

第○条 私は、貴社を退社したとき又は貴社から請求があったときは、貴社から預かった資料、私のパソコンに保存された貴社に関するデータ等一切を貴社の指示に基づき返還又は消去し、全て返還又は消去した旨を表明し保証する文書を貴社に差し入れます。

退職後の秘密保持義務

上記のとおり、退職後には秘密保持義務は当然には発生しないものと解されています。

そのため、退職後の秘密保持義務を誓約書上明記しておくと良いでしょう。

なお、永久に続く権利や義務を定めると裁判上無効とされるおそれがあります(現実に履行ができないため)。そのため、1年など現実的な範囲で秘密保持義務が継続する期間を明記するのがよいでしょう。

第○条 私は、貴社退職後1年間、前各項の義務を遵守することを誓約します。

秘密保持に関する誓約書を作成するときに気をつけること

以上、秘密保持に関する誓約書を作成するときに気をつけるべきことは

  • 誓約書とするか、契約書にするか
  • 提出のタイミング
  • 秘密情報の定義
  • 秘密情報の返還
  • 退職後の秘密保持義務

です。

なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 吉本侑生先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した秘密情報保持に関する誓約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。

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