弁護士が教えるデータ解析業務委託契約書の作り方

この記事では、弁護士が、一般的なデータ解析業務委託契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。

データ解析業務委託契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。

本記事で紹介する文書はKIYACで簡単に作ることができます。

目次

データ解析業務委託契約書とは

各条項の解説をする前に、そもそもデータ解析業務委託契約書とはどのような役割をする契約書なのでしょうか。

昨今、ウェブサイト内におけるユーザーの滞在時間や行動履歴、リアル店舗における顧客の商品購買履歴など、さまざまなデータの収集が容易になりました。

他方でデータを収集するだけでは意味がなく、収集したデータを一定の目的のもとで分析し、今後の経営に活かすためのアウトプットを行うことが様々な企業で行われています。

このようなデータ分析作業を自社内ですることもあれば、データ分析を専門とする事業者に業務委託することもあります。アウトソースという言葉が使われることもありますが意味は同じです。

そして、業務委託やアウトソースは、契約書がなくても法的には有効に成立します。

しかし、契約書がないと、何の仕事を発注・受注したのか、納期はいつなのか、代金はいくらなのか、契約はどういった場合に解除できるのか、契約期間はどうなっているのか、といった、ありとあらゆることが「言った言わない」といった水掛け論になってしまい、非常にリスクが高いです。

また、データの中に個人情報保護法に定める個人データが含まれている場合、その委託先の管理に関して、契約書を締結することが強く推奨されています。

委託契約の締結
委託契約には、当該個人データの取扱いに関する、必要かつ適切な安全管理措置として、委託元、委託先双方が同意した内容とともに、委託先における委託された個人データの取扱状況を委託元が合理的に把握することを盛り込むことが望ましい。

個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-4(2)

そのため、データ解析の委託にあたっては、必ず契約書を準備するようにしましょう。

各条項の解説

委託するデータ解析業務の特定

まず、どのようなデータ解析業務を委託するのか、できるだけ特定して記載しましょう。

委託者受託者間で議論を重ねる過程で、仕様書を作成し、これを別紙として添付し特定することも有用です。

第○条(委託業務)
1 甲は、乙に対し、下記の事項に関するデータ解析業務その他これに付帯する業務(以下「本業務」という。)を委託し、乙は、これを受託する。
      記
一 委託者のウェブサイトにおける顧客の行動履歴、滞在時間

二 ・・・(以下略)

検修方法の特定

データ解析業務の委託にあたっては、何らかの成果物(レポートなど)をアウトプットとして想定しているケースが多々あります。

このような場合には、必ず、検修の方法について適切な規定をおきましょう。

そうしなければ、どこまで、何をやれば報酬が発生するのか、業務が「終了」するのか、双方に解釈の余地が多分に残ってしまい、紛争の火種になります。

ここでは、成果物を納入し、一定期間以内に仕様書と内容に齟齬がないかクライアントに確認させ、確認書が交付されれば検修完了、という文例を紹介します。

さらに、確認書が交付されない場合であっても、一定期間が経過した場合には確認書が交付されたものとみなす規定をおくことによって、検修をクリアすることができます。

第○条(検査)
1 乙は、本業務の成果物(データ処理結果及び付属ドキュメント等。以下「本件目的物」という。)を、下記の期日までに完成させた上で、これらの電子データを甲乙が協議の上合意した方法により引き渡す。
      記

    ○年○月○日
2 甲は、前項による本件目的物の納入がなされた日から○日以内(以下「本件業務の確認期間」という。)に本件目的物の内容を確認する。
3 前項の確認の結果、本件目的物に、種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しない状態(以下「契約不適合」という。)がないと認めた場合、甲は、乙に対し、検収書を交付する。本件目的物に契約不適合がある場合は、甲は、その旨を乙に対して通知するものとし、乙は、当該契約不適合を甲の指示する期間内に修正の上、再度納入する。再納入後の手続は本条第2項以下の規定を適用する。

再委託を許すか否か

とくに個人情報保護法上の個人データを委託の対象とする場合や、業務上高度な機密情報を解析の対象として外注する場合には、再委託を禁止する規定をおくことが委託者のリスクヘッジになります。

再委託を禁止する定めを置かなければ、原則として、再委託はフリーハンド(受託者の自由)となってしまいます。

全面的に禁止するのではなく、委託者の事前の了承があった場合に限り再委託を許すという規定もよく見受けられます。

第○条(再委託の制限)
乙が本委託の全部又は一部を第三者に委託する場合は、再委託契約の内容をあらかじめ明らかにして、甲の事前の書面による承諾を得るものとする。この場合、乙は、本契約上の乙と同等の義務を再委託先である第三者に負わせるものとする。ただし、乙の本契約上の義務は、再委託によって何ら軽減されるものではない。

契約不適合責任(瑕疵担保責任)

検修完了後も、納品物の内容が契約内容と異なる場合には、やり直しや代金減額を求める権利が、民法で定められています。

これを、かつては「瑕疵担保責任」と呼びましたが、現在では民法が改正されて「契約不適合責任」という呼び方に変わっています。

契約不適合責任の期間は、何も契約に定めなければ、原則として1年間と、相当に長い期間になっています。

民法

(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。・・・(以下略)

(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

ここで重要なのは、民法の条文のままだと、「不適合を知った時から1年」の期間が対応期間になってしまうことです。

たとえば、仕様書との不適合を見つけたのが、納品から11ヶ月後だったとしても、民法どおりだと、その「見つけた日」から1年間、補修などの責任を負うことになってしまいます。これでは制作業者の責任が重すぎるので、最低限、「検修完了日」から1年間にするなどのリスクヘッジが必要になります。

さらに1年という期間も任意に短縮できるので、たとえば6ヶ月、3ヶ月、1ヶ月などと交渉することも可能でしょう。

以下例文を挙げます。

第○条(契約不適合及び損害賠償)  
1 乙は、本件目的物の納品後○ヶ月以内に、当該成果物に納品時に直ちに発見することができない契約不適合が発見された場合には、甲乙協議の上決定した期日までに無償でこれを修正するものとする。(以下略)

一般条項

以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。

一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。

データ解析業務委託契約書を作成するときに気をつけること

以上、データ解析業務委託契約書を作成するときに気をつけるべきことは、

  • 委託するデータ解析業務の特定
  • 検修方法の特定
  • 再委託を許すか否か
  • 契約不適合責任(瑕疵担保責任)

です。

なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 中島和也先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用したデータ解析業務委託契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。

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