弁護士が教える取締役委任契約書の作り方

この記事では、弁護士が、一般的な取締役委任契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。

取締役委任契約書を今すぐ準備しないといけない中小企業・スタートアップの方は必見です。

本記事で紹介する文書はKIYACで簡単に作ることができます。

目次

取締役委任契約書とは

取締役は、株主総会の決議によって選任されます。

そして、取締役の報酬についても、原則として株主総会の決議で定められることになります(全員分の枠を株主総会で決議して、各自の報酬額については取締役会決議の中で定めることもよくあります。)。

他方で、それ以外のことについては、契約上は、単に決議をしただけだと、「何も決まっていない」ということになってしまいます。

口約束で細かい契約事項を定めることも法的には禁止されていませんが、後日のトラブルを避けるためにも、従業員を雇用する際に雇用契約書を締結するのと同様に、取締役についても契約内容を書面で明確にしておくのが双方にとって良いでしょう。

ここでは一般的なひな形を解説していきます。

各条項の解説

取締役としての地位の確認

取締役は、従業員(雇用契約)とは異なり、株主総会の選任に依拠してその地位を得るものです。

そのため、株主総会によって、解任も可能となります。

会社法上、これらは明示されていることではありますが、はじめて取締役になる人や、社会人経験が長くない人にとっては、これらのことは「当たり前」ではないかもしれません。

そこで、お互いに誤解が生じないように、取締役の地位について明確に定めておくことが考えられます。

退職金規定なども特に定めていないのであれば、その旨も明示しておきましょう。

たとえば次のような条項が考えられます。

第3条(乙の地位)
乙は、乙の取締役としての地位が、甲の株主総会における取締役の選任に依拠しているものであって、甲の株主総会が、会社法の規定に従って、乙の解任決議をした場合には、前項に定める期間にかかわらず、本契約は終了し、乙は甲における取締役としての地位を失うことを確認する。この場合において、甲は乙に対して、本契約において明示されたものを除いて、何らの報酬、退職金、損害賠償、費用等を支払う義務を負わない。

報酬

取締役の報酬は、上記のとおり株主総会(とそこから委任を受けた取締役会)で決められるものですが、その支払いサイクルについては会社法上は定められていません。そこで、たとえば次のようにさだめることが考えられます。

労務管理の都合上は、ほかの従業員と同様の支払いサイクルにしておくと便利でしょう。

第○条(報酬等)
甲が乙に対して支払う報酬等は、毎月甲の就業規則、給与規則その他社内規則に定める期日限り、年俸を12か月に均等割りした金額を乙の指定する口座に振り込んで支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。

競業避止義務

取締役の在任期間中、取締役は、会社と競合する他社への参画や協力を禁止されます。これを競業避止義務と言います。

では、取締役を退任した後はどうでしょうか?

何も契約で定めておかなければ、退任後は自由にライバル会社に就職、協力することが可能になってしまいます。

そこで、契約で、一定期間、ライバル会社への就職や協力を禁止することが考えられます。

当社従業員の引き抜きを禁止することについても明言しておきましょう。

他方で、あまりにも長期間、就業を禁止すると、憲法が定める職業選択の自由に違反することになり、当該条項は裁判で無効になってしまう可能性があります。

そのため、一定期間に制限しておくことが推奨されます。具体的には、過去の裁判例に照らすと、2年以内程度に設定するのが安全です。

第○条(競業禁止)
1 乙は、自己又は第三者のために、甲の定款で定めている業務と同じもしくは競合する可能性のある内容の業務を行い、又は、そうした事業を行っている会社その他の組織に役員としての就任もしくはコンサルタント契約の締結等を行ってはならない。ただし、事前に取締役会において、当該業務、就任又は契約等について重要な事実を開示し、その承認を受けた場合には、これを適用しない。
2 乙は、甲の取締役を退任するにあたっては、退任後○年間は、日本国内において、甲の定款で定めている業務と競合関係にある事業を自ら開業し、又は競合関係に立つ事業者の役員に就任しないこととする。
3 乙は、甲の事前の書面による承諾を得ずに、本契約の終了後○年間、甲の役員又は従業員に対し、乙又は第三者のために任用や雇用の勧誘をしてはならない。

一般条項

以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。

一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。

特に、コンプライアンスの観点からは、反社会的勢力の排除条項については、必ず挿入しておくようにしましょう。

取締役委任契約を作成するときに気をつけること

以上、取締役委任契約を作成する時に気をつけるべきことは、

  • 取締役としての地位の確認
  • 報酬
  • 競業避止義務

です。

なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 中島和也先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した取締役委任契約を数分程度で作成できますので、手元にひな形がない人は是非利用してみてくださいね。

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