この記事では、弁護士が、一般的なパートタイマー向けの雇用契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。
パートタイマー向けに雇用契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
パートタイマー向けの雇用契約書とは
正社員向けの雇用契約書、契約社員向けの雇用契約書に関しては以下の記事で紹介していますので、本記事ではパートタイマー向けに必要な事項に絞って解説していきます。
まず、「パートタイマー」ということばですが、法律では、「パート」、「アルバイト」といった呼称の違いによらず、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パートタイム・有期雇用労働法」といいます。)という法律によって、「一週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短い労働者」(以下「短時間労働者」といいます。)が特別に保護されています。
正社員にも、労働条件の明示が義務付けられていますが、短時間労働者については、これに加えて、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の4つの事項を文書の交付(短時間労働者が希望した場合は電子メールやFAXでも可)により、速やかに、短時間労働者に明示することが義務付けられています(法第6条第1項)。同条に違反した場合、行政指導によっても改善されなければ、短時間労働者1人につき、10万円以下の過料の対象となります(法第31条)。
パートタイム・有期雇用労働法
(労働条件に関する文書の交付等)
第六条 事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの(次項及び第十四条第一項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければならない。
そのほか、短時間労働者については、正社員と比較して不合理な待遇の禁止(法第8条)、差別的取り扱いの禁止(法第9条)が定められています。
詳細は厚生労働省の説明ページもご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000046152.html
これらの規定を意識しながら、短時間労働者向けの雇用契約書を整備することになります。
各条項の解説
契約期間
いわゆる契約社員と異なり、パートタイマーについては、理屈上、契約期間を設定しない(期限の定めのない)雇用契約とすることも検討はできます。
しかしながら、正社員と一定待遇が異なり、流動性があることを双方が前提としていることが通常であることから、契約期間を具体的に設定しておくのが無難でしょう。
また、更新については、契約社員と同様、原則として自動更新はなく、更新がある場合は新たな契約書が必要である旨を明記しておくのが双方にとって安全です。
第○条(契約期間)
1 本契約の期間は、下記の期間(以下「雇用期間」という。)とする。
記
○年○月○日から○年○月○日まで
2 前項の規定にかかわらず、雇用期間の満了に際して、甲が従事している業務の進捗状況、甲の担当部門及び関連部門の業務量、乙の経営状況、甲の勤務成績、態度、能力等を考慮して本契約を更新することが適切であると乙が認めた場合、乙は、甲と合意して本契約を更新することができる。この場合、甲と乙は、新たに契約書を締結することを要するものとし、新たな契約書が締結されない限り、本契約は更新されないものとする。
パートタイム就業規則の遵守
パートタイマーについては、正社員と雇用条件が多々異なることから、正社員向けの就業規則と別途、パートタイマー向けの就業規則を定めることが推奨されます。
パートタイマー向けの就業規則を制定している場合は、これを遵守することを、雇用契約の中で明示するようにしましょう。
第○条(甲の責務)
甲は、本契約及び乙の定めるパートタイム就業規則その他の諸規程及び乙の指示を遵守して誠実に職務を行うものとする。
昇給、退職手当、賞与の定め
前述の通り、パートタイム労働法においては、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の定めについて、労働者に明示することが義務付けられています(法第6条第1項)。
そのため、パートタイマー向けの雇用契約書でも、これらの事項について明記するようにしましょう。
労働条件通知書を別途発行する場合も、念の為に雇用契約書にこれらの事項を明記しておくと安心です。
第○条
乙の定めるパートタイム就業規則のとおり、甲については、次の事項は行われないものとする。
(1)定期的な昇給
(2)退職手当の支給
(3)定期的な賞与
一般条項など
その他の事項については以下の記事をご覧ください。
パートタイマー向け雇用契約書を作成するときに気をつけること
以上、パートタイマー向け雇用契約書を作成するときに気をつけるべきことは
- 契約期間の明示
- パートタイム就業規則の遵守
- 昇給、退職手当、賞与の定め
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 三島大樹先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用したパートタイマー向けの雇用契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。