この記事では、弁護士が、一般的なノウハウライセンス契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。
ノウハウライセンス契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
ノウハウライセンス契約書とは
「ノウハウ」とは、日本の法律上の用語ではありませんが、一般的には、ビジネス上利用価値が高く、かつ秘密性の高い技術情報を意味します。
たとえば特殊な商品の製造方法や、調理レシピなどがノウハウとして保護されていることがあります。
ノウハウライセンス契約書とは、これらのノウハウの秘匿性を保持した状態で、ノウハウを第三者に対して開示し、その対価としてライセンス料を受け取るという契約です。
ノウハウのライセンスにあたっては、どのようにノウハウを提供するのか、ノウハウを利用したビジネスから得た利益をどのように分配するのか(ロイヤルティ)など、さまざまな論点が発生します。
そのため、ノウハウのライセンスにあたっては、必ず契約書を準備するようにしましょう。
各条項の解説
ノウハウの特定
ノウハウライセンスにおいて一番難しいのが、ライセンスするノウハウを特定することです。
ノウハウは、その性質から、無形の「情報」の塊であるため、あまりにも漠然とした記述をすると、一体何をライセンスしたのか、第三者からみたときに意味不明になってしまう可能性があります。
たとえば、商品の製造であれば、もとの商品名を特定する、レシピであれば、もとの料理名を特定する、写真をつけるなど、できるだけ工夫して、ノウハウの対象が何になるのかを特定するように心がけましょう。
第○条(実施許諾)
甲は、乙に対し、甲が開発し、保持する下記の事項に関するノウハウ(以下「本件ノウハウ」という。)を日本国内において独占的に実施することを許諾する。
記
○○
ノウハウの提供方法
どのような方法でノウハウを提供するのかについても具体的に定めるようにしましょう。
書面による提供も考えられますし、書面という形に残すことが難しい場合には、口授することも考えられます。
いずれにせよ、後日「ノウハウの提供を受けられていない」というクレームを回避するために、ノウハウ提供の方法やその実施日時を特定することが有用です。
第○条(ノウハウの提供)
1 甲は、本契約締結後甲及び乙が合意する期日までに、本件ノウハウに関する基本情報を記載した書面を交付する方法にて本件ノウハウを乙に提供する。当該書面に含まれる情報の一切は本件ノウハウの内容を構成するものとする。
2 甲は、本契約の有効期間内において、甲及び乙が別途合意する内容に従い、本件ノウハウに関する技術指導を行う。
ロイヤルティ(ライセンス料)
ノウハウを活用して商品やサービスを販売した結果得られる収益から、いくらのロイヤルティ(ライセンス料)を取得するのか、その計算式はどのようになるのか、計算の期間はどのようになるのか、支払い期日はいつになるのかについて、具体的に記載しましょう。
第○条(実施料)
乙は、甲に対し、本件ノウハウの実施権の対価として、本件製品の各月の売上高の○%に相当する金額(税込)を翌月末日までに甲の指定する銀行口座に振込みにて支払う(振込手数料は乙の負担とする。)。
報告(監査)
上記のロイヤルティの算出にあたって必要となるのが、「結局いくら商品が売れたのか?」に関する情報です。
ところがこの情報は、ライセンスを受けた側に偏在していることが通常です。
そこで、ライセンス契約では、ライセンスを提供する側に、ライセンスを受けた事業者に対する監査権限を付与し、報告する売り上げなどに疑義がある場合には調査ができるようにすることが一般的です。
第○条(報告)
1 乙は、甲に対し、乙が各月に本件ノウハウに基づき製造、販売した製品の製造数量、販売数量、売上高その他甲の指定する本件ノウハウの実施状況に関する事項を翌月末日までに書面により報告するものとする。
2 甲は、前項の報告に疑義があるときは、乙に対し、報告事項の正確性を裏付ける帳簿その他の資料の提出を求めることができるものとし、乙は、合理的な理由がない限り、これを拒否することができない。
秘密保持
ノウハウは、その性質上、当然、ライセンス後も慎重な取り扱いが求められるものです。
そのため、ノウハウライセンス契約書では必ず秘密保持について厳格に定めるようにしましょう。
第○条(秘密保持義務)
1 乙は、本契約に基づき甲から開示された本件ノウハウ(改良技術その他関連情報を含む。)を秘密に保持し、甲の事前の書面による承諾なしに第三者に開示、漏洩せず、また開示目的以外に使用しない。
2 乙は、業務上本件ノウハウを知る必要のある役員及び従業員以外の者に本件ノウハウを開示し、その他本件ノウハウに関連する業務に従事又は関与させてはならない。
3 乙は、甲の書面による事前の承諾を得て本件ノウハウを第三者に開示する場合、若しくは業務上本件ノウハウを知る必要のある役員及び従業員を本件ノウハウに関与させる場合には、当該第三者、役員及び従業員に対して、本契約と同様の秘密保持義務を負わせなければならない。
4 前3項にかかわらず、本件ノウハウが次の各号の一に該当する場合は、乙は秘密保持義務を負わない。
(1)開示の時点で公知の事実
(2)乙が当該情報の受領時に既知であったことを証明できる事実
(3)乙が正当な開示権限を有する第三者から正当に入手した事実
(4)開示後に乙の責めによらずして公知となった事実
5 前各項の規定は、本契約終了後○年間は効力を失わない。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、以下の記事を参考にしてください。
ノウハウライセンス契約書を作成するときに気をつけること
以上、ノウハウライセンス契約書を作成するときに気をつけるべきことは
- ノウハウの特定
- ノウハウの提供方法
- ロイヤルティ(ライセンス料)
- 報告(監査)
- 秘密保持
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 吉田尚平先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用したノウハウライセンス契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。