この記事では、弁護士が、一般的な社外役員の責任限定契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。
責任限定契約書を今すぐ準備しないといけない中小企業・スタートアップの方は必見です。
責任限定契約書とは
各条項の解説に入る前に、そもそも責任限定契約書とはどういう役割を果たすものなのでしょうか。
会社の役員は、社外役員であろうが、そうでなかろうが、業務上の任務懈怠(難しい日本語ですが、誤解を恐れずものすごくシンプルな表現を使うと、「ちゃんと経営しなかったこと」です。)に基づいて会社に損害が発生した場合、その損害を賠償する責任を負います。
会社の事業規模が小さいうちであれば、任務懈怠に基づく損害額も膨大にはならないでしょうが、会社が規模の経済を発揮して一気に拡大し、その渦中でなんらかのトラブルに基づく損害賠償案件が発生すると、とても個人の資産では賠償できないような高額の損害賠償が発生してしまう恐れがあります。
これでは、社外役員の成り手がいなくなってしまう(損害賠償リスクが怖くて社外役員になる人がいなくなってしまうため、会社法上、一定の要件を満たす場合に、損害賠償額の上限を設定することができることになっています。
具体的には、定款に、責任限定契約を社外役員との間で締結できることを記載し、さらに、個別の社外役員との間で責任限定契約を取り交わすことが条件になっています。
ここでは、個別の社外役員と取り交わす責任限定契約のひな形をご紹介します。
各条項の解説
責任限度額
責任を限定する、といっても、一切の損害賠償責任を一律に免責することは会社法上認められていません。
具体的には、会社法第425条第1項において、「最低責任限度額」が定められています。
社外役員についての最低責任限度額は、役員報酬の2年分(詳細な計算方法は以下引用する条文のとおり)とされています。
会社法
(責任の一部免除)
第四百二十五条 前条の規定にかかわらず、第四百二十三条第一項の責任は、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、賠償の責任を負う額から次に掲げる額の合計額(第四百二十七条第一項において「最低責任限度額」という。)を控除して得た額を限度として、株主総会・・・の決議によって免除することができる。
(中略)
ハ 取締役・・・、会計参与、監査役又は会計監査人 二会社法施行規則
(報酬等の額の算定方法)
第百十三条 法第四百二十五条第一項第一号に規定する法務省令で定める方法により算定される額は、次に掲げる額の合計額とする。
一 役員等がその在職中に報酬、賞与その他の職務執行の対価(当該役員等が当該株式会社の取締役、執行役又は支配人その他の使用人を兼ねている場合における当該取締役、執行役又は支配人その他の使用人の報酬、賞与その他の職務執行の対価を含む。)として株式会社から受け、又は受けるべき財産上の利益・・・の額の事業年度・・・ごとの合計額・・・のうち最も高い額
二 イに掲げる額をロに掲げる数で除して得た額
イ 次に掲げる額の合計額
(1) 当該役員等が当該株式会社から受けた退職慰労金の額
(2) 当該役員等が当該株式会社の取締役、執行役又は支配人その他の使用人を兼ねていた場合における当該取締役若しくは執行役としての退職慰労金又は支配人その他の使用人としての退職手当のうち当該役員等を兼ねていた期間の職務執行の対価である部分の額
(3) (1)又は(2)に掲げるものの性質を有する財産上の利益の額
ロ 当該役員等がその職に就いていた年数(当該役員等が次に掲げるものに該当する場合における次に定める数が当該年数を超えている場合にあっては、当該数)
(中略)(3) 取締役・・・、会計参与、監査役又は会計監査人 二
会社法どおりの責任とすることも、それよりも高額の責任を設定することもできますが、ここでは会社法どおりの責任とする場合の条項令をご紹介します。
第○条(責任限度額)
乙が甲の非業務執行取締役等として、本契約締結後、その任務を怠ったことにより甲に損害を与えた場合において、乙がその職務を行うにあたり、善意でかつ重大な過失がないときは、会社法第425条第1項に定める最低責任限度額を限度として甲に対し損害賠償責任を負うものとし、その損害賠償責任額を超える部分については、甲は乙を当然に免責するものとする。
再任の場合の効力
役員任期が満了し、重任されるたびに責任限定契約を締結し直さなければならないとなると面倒です。
そこで、契約書で、再任された場合には責任限定契約も自動更新されることを定めることが有用です。
たとえば次のような条項が考えられます。
第○条(再任の場合の効力)
乙が甲の非業務執行取締役等の任期満了時に再度選任され、就任することにより非業務執行取締役等としての地位を保有する場合は、就任後の行為についても本契約はその効力を有するものとし、その後も同様とする。ただし、再任後新たに甲と乙との間で乙の責任を限定する旨の契約を締結する場合にはこの限りではない。
保険加入
責任限定といっても、実際に役員報酬の2年分相当額となると、しっかり報酬を受け取っている役員からすると相当な金額になってきます。
そこで、社外役員が、会社役員賠償責任保険に加入することが多々あります。
その場合の保険料については、会社が負担するケース、役員個人が負担するケースがありますので、どのような取り扱いにするのか、契約書に明記しておくと、後日のトラブルを避けることができるでしょう。
ここでは会社が負担する場合の条文例を紹介します。
第6条(保険)
乙は、甲が加入する会社役員賠償責任保険における株主代表訴訟担保特約にかかる保険料相当額を自ら負担することについて同意する。
乙の会社役員賠償責任保険における株主代表訴訟担保特約にかかる保険料相当額は、甲が負担する。
責任限定契約を作成するときに気をつけるべきこと
以上、責任限定契約を作成するときに特に気をつけるべきことは、
- 責任限度額
- 再任の場合の効力
- 保険加入
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 中島和也先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した責任限定契約を数分程度で作成できますので、手元にひな形がない人は是非利用してみてくださいね。