弁護士が教えるOEM契約書の作り方

この記事では、弁護士が、一般的なOEM契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。

OEM契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。

本記事で紹介する文書はKIYACで簡単に作ることができます。

目次

OEM契約書とは

各条項の解説をする前に、そもそもOEM契約書とはどのような役割をする契約書なのでしょうか。

OEM(オー・イー・エム)とは、「Original Equipment Manufacturing(Manufacturer)」を略した言葉で、その厳密に意味するところは人や場面によってさまざまですが、このブログでは、「委託者が自社の商品を販売するために、メーカー等に商品の開発製造を委託する」「商品の原料調達もすべて委託先に任せる」「製造された商品の供給を受ける契約」であるケースについて説明します。

OEM製造を委託する場合には、自社技術や商品の内容を開示することになりますので、競業避止義務など定める必要が生じます。

商品に付される商標の利用についても、何もルールがなければ双方に混乱が生じます。

そのため、OEMする側、される側、双方にとって、取引開始前にOEM契約書を締結することがきわめて重要になります。

以下個別の条項を確認していきます。

各条項の解説

OEM契約の性質特定

上記のとおり「OEM契約」は法律上の用語ではなく、人によって意味するところがさまざまです。

そのため、まずはこの契約における「OEM」というのがどういう意味なのか、何を目的とした契約なのかを明示することで双方の認識の齟齬を解消することができます。

たとえば次のような条項が考えられます。

第○条(目的)
甲は、甲が販売する本製品の製造を乙に委託し、乙は、甲乙事前に協議して作成する仕様に従って本製品を製造し、甲は完成した本製品を乙より買い取るものとする。

仕様の特定

OEM契約にあたっては、どのような商品の製造を委託するのか、できるかぎり個別具体的に特定することがまず重要になります。

ただし、特定すると言っても、契約書の中で、細かい仕様などを詳細に書き切ることは難しいケースが多いです。

そのため、委託者受託者双方で協議した内容を、仕様書として取りまとめ、契約書別紙として添付する、別途交付するなどして特定することが考えられます。

ここでは後日仕様書を交付する形で特定する条項を紹介します。

第○条(仕様)
1 本製品の仕様については、甲乙協議の上、甲が仕様書を作成し、乙に交付するものとする。
2 甲は、本製品の仕様に変更の必要が生じたときは、乙と協議の上、前項の仕様を変更することができる。

発注に関するルール(個別契約)

継続的な製造供給を依頼する場合は、幾度にもわたって発注・受注が繰り返されることになります。

そこで、OEM契約本体としては、製造個数など特定せず、基本契約としておき、個別の発注・受注については個別契約書や、発注書・発注請書などに委ねる形とすると便利です。

どのような場合に個別契約が成立するのかを明示しておくと後々のトラブルを回避できます。

以下条項例をご紹介します。

第○条(個別契約)
1 甲は、乙に対して、数量、購入価格、納期、納入場所等を記載した注文書にて、本製品に関する個別取引を発注し、乙が注文請書にて承諾することにより個別契約が成立するものとする。
2 前項の発注に対し、乙は、甲からの注文書受領後○日以内に書面にて承諾するかどうか返答しなければならず、甲からの注文書受領後○日以内に、乙から甲に対し何らの書面が到達しない場合、乙は、注文書の条件で承諾したものとみなす。
3 本契約の規定は、個別契約にて特段の定めがなされない限り、個別契約に適用されるものとする。

商標の取り扱い

OEM製造、供給する商品については、OEM元で商標を取得しているケースが多いと思います。

商標を取得している場合には、その利用をどのような形態で許すのか、指定するのかといったことを明確に定めておく必要があります。

よくあるトラブルは、受託者側で、製造した商品があまった場合などに、勝手に委託者の商標を付したままB品販売をするケースなどがあります。

このような行為を禁止するために、商標利用が許される場合、許されない場合について明確に定めておくことが双方にとって有益です。

第○条(商標)
1 乙は、甲が指示する方法、態様により、本製品及び本製品の包装材等に甲の商標を表示しなければならない。
2 乙は、甲の事前の書面による承諾を得ることなく、本製品以外の製品に甲の商標を付し又は使用するなど本契約の目的以外に流用してはならず、甲の商標を付した本製品を甲以外の第三者に販売してはならないものとする。

検品方法の指定

製造されたOEM品の受け入れ検査に関する条文です。

何も定めていなければ、どのような場合に合格になるのか、不合格になるのか、双方に解釈の余地が多分に残ってしまい、トラブルの元になります。

ここでは、商品を納品し、一定期間以内に仕様書と内容に齟齬がないかクライアントに確認させ、問題ない旨の通知があれば検修完了、という文例を紹介します。

さらに、通知がない場合であっても、一定期間が経過した場合には通知があったものとみなす規定をおくことによって、検修をクリアすることができます。

不合格品について、どのような処理をするのかについても、明示しておくと安心です。

第○条(受入検査)
1 甲は、本製品の納入後直ちに、製品の数量、仕様、品質等の受入検査を行い、その結果を本製品の納入後○日以内に乙に通知する。
2 本製品が第1項の検査に合格したときに本製品の引渡しが完了したものとする。
3 乙が、本製品の納入後○日以内に、甲から何らの書面通知を受領しないときは、第1項の検査に合格したものとみなす。
4 乙が、甲から検査不合格の通知を受けた場合、乙は、不合格品について直ちに不合格品を引き取った上で代替品納入、修理、不足品の納入、その他甲の指示する措置を講じるものとし、これによって甲が被った損害につき賠償しなければならない。

契約不適合責任(瑕疵担保責任)

検修完了後も、納品物の内容が契約内容と異なる場合には、やり直しや代金減額を求める権利が、民法で定められています。

これを、かつては「瑕疵担保責任」と呼びましたが、現在では民法が改正されて「契約不適合責任」という呼び方に変わっています。

契約不適合責任の期間は、何も契約に定めなければ、原則として1年間と、相当に長い期間になっています。

民法

(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。・・・(以下略)

(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第五百六十六条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。

ここで重要なのは、民法の条文のままだと、「不適合を知った時から1年」の期間が対応期間になってしまうことです。

たとえば、仕様書との不適合を見つけたのが、納品から11ヶ月後だったとしても、民法どおりだと、その「見つけた日」から1年間、補修などの責任を負うことになってしまいます。これでは制作業者の責任が重すぎるので、最低限、「検修完了日」から1年間にするなどのリスクヘッジが必要になります。

さらに1年という期間も任意に短縮できるので、たとえば6ヶ月、3ヶ月、1ヶ月などと交渉することも可能でしょう。

以下例文を挙げます。

第○条(保証)
1 乙は、甲に対し、甲に納入する本製品が第○条に定める仕様に完全に適合したものであり、種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しない状態(以下「契約不適合」という。)のないことを保証する。
2 第○条の検査終了後○ヶ月以内に、本製品に契約不適合が発見されたときは、乙は、無償修理、代替品納入、代金減額その他甲の指示する措置を講じるものとし、その契約不適合によって甲が被った損害を賠償しなければならない。

取引保証

OEM製造を委託される側からすると、どれくらいの発注があるのか、何もわからない状態だと、経営計画を立てることが困難になります。

そこで、OEM契約において最低発注量を定めることがあります。委託側は、最低発注量を定める代わりに、一定のVol.ディスカウント交渉をすることができます。

ここでは簡単な文例を紹介します。

第○条(取引保証)
1 甲は、乙に対し、下記のとおり本製品の発注及び買取を保証する。
      記
  年間○○個
2 次年度以降に甲が保証する毎年の発注個数については、甲乙協議の上決定するものとする。

競業避止義務

OEM製造を委託すると、受託者側に委託者のノウハウや企業秘密が多数知られることになります。これを利用して競合品の製造販売などされると委託者としては甚大な被害を受けることになります。

そこで、一定期間競業避止義務を設定することが委託者側のリスクヘッジとして重要になります。

第○条(競合禁止)
乙は、甲から事前に書面による承諾を得た場合を除き、甲以外の第三者に、本製品と同一又は類似の製品を販売してはならない。

一般条項

以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。

一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。

OEM契約書を作成するときに気をつけること

以上、OEM契約書を作成するときに気をつけるべきことは、

  • OEM契約の性質特定
  • 仕様の特定
  • 発注に関するルール(個別契約)
  • 検品方法の指定
  • 契約不適合責任(瑕疵担保責任)
  • 取引保証
  • 競業避止義務

です。

なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 中島和也先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用したOEM契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。

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