この記事では、弁護士が、一般的な業務委託契約書の作り方を雛形条文つきで解説します。
業務委託契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
業務委託契約書とは
各条項の解説をする前に、そもそも業務委託契約書とはどんな役割をする契約書なのでしょうか。
特にフリーランスの世界では、当たり前のようにあらゆる仕事が「業務委託」で行われています。
アウトソースという言葉が使われることもありますが意味は同じです。
そして、業務委託やアウトソースは、契約書がなくても法的には有効に成立します。
その意味で、業務委託契約書は「法的に必ず作らなければいけないもの」ではありません(なお、ギグワーカー・フリーランス保護の目的で、契約書やそれに準じる書面の作成義務を委託者に課す法律の制定が議論されていますが、ここではこれ以上は触れません。)。
しかし、契約書がないと、何の仕事を発注・受注したのか、納期はいつなのか、代金はいくらなのか、契約はどういった場合に解除できるのか、契約期間はどうなっているのか、といった、ありとあらゆることが「言った言わない」といった水掛け論になってしまい、非常にリスクが高いです。
特に高額の受託案件で業務委託契約書がないと、トラブルになったときに致命的です。
そこで、トラブルが起きたときにも万全の対応ができるように、業務委託契約書を準備することになります。
各条項を作るときのポイント
では、業務委託契約書にはどのような条文を記載することになるのか、具体的に説明していきます。
委託・受託する業務を明確にする
最初に重要になるのは、「何を」委託・受託するのかを明確にすることです。
よく目にする「悪い」契約書の例は、「甲の業務を委託する」としか記載されておらず、何を委託するのかの範囲が曖昧になっているものです。そうすると「ここまでが依頼した作業」「ここからは依頼していない作業」といった線引が曖昧になり、これでは業務委託契約書を作る意味が半減してしまいます。
そこで、たとえば次のように規定します。
第○条(本件業務の内容及び範囲)
委託者は、受託者に対し、以下の業務(以下「本件業務」という。)を委託し、受託者はこれを受託する。1 〇〇
2 〇〇
3 その他上記に付帯する業務
業務委託料
「何を委託するのか」と対になるのが「その業務の対価はいくらなのか」です。この点も明示しておかないと、「請求書記載のとおり」「見積書記載のとおり」などとすると後日「それはどの請求書のこと?」と争いのもとになってしまいます。
また、税別・税抜の別についても明示するようにしましょう。
そして、業務委託料を、どのようなサイクルで支払うのかを明示しましょう。一般的なのは「当月分を翌月○日限り支払う」といった内容です。
以下に文例をあげます。
第○条(業務委託料)
業務委託料とその支払方法は以下のとおりとする。
一 業務委託料 月額○円(税込)
二 業務委託料の支払期日 当月分を翌月末日限り三 支払方法 受託者の指定する口座に振込払い。振込手数料は委託者の負担とする。
業務委託の期間(契約期間)
委託する業務とその代金が決まったら、次に、業務委託の期間(契約期間)を定めましょう。
単発案件であれば、納品完了・代金支払いまで、とすることも考えられます。
第○条(契約期間)
本契約の有効期間は、本件業務及び業務委託料の支払が完了するまでの間とする。
継続的な契約であれば、1年間の自動更新などとすることも考えられます。
第○条(契約期間)
本契約の有効期間は、本契約の締結日から1年間とする。第○条(契約更新)
本契約は、当事者のいずれかから契約期間の末日の1ヶ月前までに別段の意思表示のない限り、同一の契約期間及び同一の契約内容にて更新されるものとし、以後も同様とする。
中途解約を許すか
契約期間中に中途解約を許すかどうかも、契約の内容で定めることができます。
何も定めなければ、民法の委任のルールに従うと、原則として中途解約は可能になります。
民法
(委任の解除)
第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
ただしこのような自由な解約を良しとしない契約もあるでしょうから、そのような場合には中途解約はできないと明示することになります。
中途解約は許すが、その場合経過期間分の業務委託料は払ってもらう、とする場合は、その旨を明示することになります。ここでは清算金額を協議で定める場合の文例を挙げます。
第○条(中途解約)
第○条の規定にかかわらず、委託者及び受託者が合意した場合には、本契約を中途解約することができる。この場合の未払業務委託料の清算等については、委託者及び受託者が協議のうえこれを定めるものとする。
再委託を許すか否か
これは、特に業務受託者にとって重要な条項です。
委託を受けた業務について、さらに第三者に委託することを再委託といいますが、これを無制限に許すと、委託者からすると仕事の品質が気になるところです。そこで、原則禁止としたり、事前に許諾があった場合だけ許諾をしたりと、一定の制限を契約書に記載することがあります。
他方で、仕事の性質上、再委託にそこまで問題がない場合は、受託者の裁量で再委託を許すことが考えらます。
ここでは後者の場合の条項をご紹介します。
第○条(再委託)
受託者は、委託者の事前の書面による承諾を得た場合に限り、第三者(以下これらを「再委託先」という)に、本件業務を必要な範囲で再委託することができる。この場合、受託者は、再委託先が本契約の各条項を遵守するよう管理監督するとともに、再委託先が契約違反を犯した場合には、これを受託者が為したものとみなして、その一切の責任を負う。
著作権の取り扱い
特にクリエイティブ関連の業務については、業務の成果物について発生する著作権を誰のものにするか(誰に帰属させるか)が重要になることがあります。
契約書に何も記載しなければ、著作権法の原則では、創作活動をした本人に著作権が帰属することになりますが、何も定めておかないと、「誰が創作者なのか」といったことが水掛け論になってしまう可能性があります。
そこで、たとえば、一律委託者に帰属すると定めたり、一律受託者に帰属するが、委託者はその著作物を自由に利用できる、といった形で、権利関係を明確に定めます。
ここでは委託者に一律帰属する場合の文例をご紹介します。
第○条(著作権の取扱い)
成果物について生じ又は本件業務遂行の過程で生じる著作権(著作権法27条及び28条の権利を含む。以下同じ。)は、業務委託料の支払いと同時に委託者に移転する。受託者は、委託者に対し、著作者人格権を行使しない。
なお、細かい話ですが、ここで「著作権法27条及び28条」と触れられているのは、一度発生した著作物の二次創作に関する条項です。これらの権利だけが、著作権法上、別のカテゴリーになっており、このように契約書に明示しておかないと二次創作に関する権利だけが受託者に残ることになってしまいます。そのため委託者の立場であれば必ず著作権法27条及び28条の権利も移転することを明示しておきましょう。
発明等の取り扱い
委託業務の過程で新しい発明が生まれた場合、その発明についてだれが特許権者になるのかが問題になります。
何も契約者に定めなければ、「発明者のもの」になりますが、これも契約書に解釈のヒントがなければ、揉めた場合に不毛な論争になる恐れがあります。
そこで、たとえばこのような論争が起きた場合には、協議が整うまで一方が勝手に特許権の出願をしてはならない、と定めて牽制することが考えられます。次のような条項になります。
第○条(著作権を除く知的財産権の取扱い)
成果物について生じ又は本件業務遂行の過程で生じる発明、考案又は創作について、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、回路配置利用権等の知的財産権を受ける権利の取扱いは、委託者及び受託者が協議してこれを定めるものとし、一方当事者は他方当事者との協議を経ずに無断で出願行為に及ばないものとする。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。
業務委託契約書を作るときに気をつけること
以上、秘密保持契約を作るときに特に気をつけるべきことは、
- 委託する業務の定義
- 代金を明示する
- 代金の支払時期を明示する
- 契約期間
- 中途解約の可否、代金の清算方法
- 再委託を許すか否か
- 著作権の取り扱い
- 発明の取り扱い
です。これらの点に特に留意して業務委託契約書を作成しましょう。
なお、今回紹介した雛形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されている雛形を利用しました。KIYACを使えばこれらの雛形条文を利用した秘密保持契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書雛形がない人は是非利用してみてくださいね。