この記事では、弁護士が、一般的な売買基本契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。
売買基本契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
売買基本契約書とは
通常の感覚で「売買契約書」というと、ある商品を代金○円で購入する旨を定めた契約書をイメージされると思います。
これに対して、BtoBの取引では、「売買基本契約書」という契約が締結されることがよくあります。
BtoBの取引では、大量の商品を、継続的に売買することになるため、いちいち個別の売買契約を毎回締結することが煩雑に過ぎる場合があります。そこでこのような場合には、基本契約において共通となる取引事項を定めておき、個別の商品売買に関しては注文書などで処理する(個別契約)といった取引がよく行われています。
本記事ではこのような用途で締結される売買基本契約書について解説します。
各条項の解説
個別契約の成立条件
以上のとおり、基本契約の役割は共通する取引ルールを設定することであり、個別の商品売買は別途注文書などの個別契約で締結されることになります。
そこで、どのような場合に個別契約が成立することになるのかを具体的に定めておきます。
注文書方式で取引をする場合には、注文書をどのような方法で相手方に交付し、それから何日で成約となるのか(あるいは即時成約なのか)、具体的に定めることになります。
第○条(個別契約の成立)
1 個別契約は、乙が甲に対し注文書を交付し、甲が乙に対し注文請書を交付することによって成立する。
2 前項にかかわらず、乙の注文書交付後5営業日以内に甲が受注拒否の申出をしない場合には、乙の発注内容どおりに甲乙間の個別契約が成立したものとする。
検品
どのような手続きで、商品を検品するのか、具体的なルールを記載します。
検品でNGが出た商品に関しては、新しい商品との交換や、代金の減額ができるようにしておきます。
第○条(商品の検査)
1 乙は、本件商品を受領した後速やかに、乙の定める合否の基準に従い本件商品の検査を行い、本件商品に品質不良、汚損等の不具合(以下「欠陥」という。)、数量不足が存在するときには、甲に郵送、FAX又はEメールにより通知する。
2 甲は、前項の通知を受けたときは、欠陥のない本件商品との交換、不足品の追納並びに欠陥のある本件商品及び超過納入分の引取りを、乙の指定する期日までに甲の費用により行わなければならない。
3 乙は、欠陥のある商品及び超過納入分につき、甲がこれを引き取るまでの間自己の財産に対するのと同一の注意をもって保管する。
4 甲が、前項の期日までに不合格品及び超過納入分の引取りをしない場合には、乙は、甲の費用により、当該超過納入分を処分することができる。
5 乙は、甲が個別契約において定められた納入期日までに本件商品の引渡しを完了しないとき、又は引渡しを完了する見込みがないと明らかに認められるときは、個別契約の全部又は一部を解除することができる。この場合、甲は、乙が被った損害を賠償しなければならない。
6 本件商品の引渡しは、乙の検査終了と同時に完了するものとする。
所有権の移転時期
どの時点で商品の所有権が移転するのか、明記します。
BtoBで大量の商品を売買する場合には、業者の倉庫に搬入するケースも多く、いつの時点で所有権が移転するのか、明確に定めておかなければ解釈が分かれるおそれがあります。
第○条(所有権の移転時期)
本件商品の所有権は、引渡しが完了した時点で甲から乙に移転するものとする。ただし、第10条の規定により特別採用された商品については、乙が引取りの意思表示をした時点で所有権が移転する。
支払期日
継続的な大量の取引となるため、個別契約の都度決済をしていては双方煩雑になります。
そこで、当月末日締め、翌月○日払いなど、当月中に発生した取引についてまとめて所定の期日に支払いをする支払いサイクルを設定することが考えられます。
第○条(支払)
甲は、本件商品の代金について、毎月末日締めで翌月○日までに請求書を発行し、乙は、甲の請求書記載の金額を、請求書を受領した月の○日までに支払うものとする。ただし、代金支払日が、土曜日、日曜日、祝日にあたる場合、その翌営業日までに支払うものとする。
なお、乙から請求書の記載金額について異議があった場合、甲乙別途協議し、その金額を確定するものとする。
契約不適合
納品された商品に、納品時点では判明しなかった不具合があった場合、これについて修補請求、代替物の引き渡し請求、代金減額請求、解除をすることができます。これを民法上、「契約不適合責任」と呼んでいます(以前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。)。
契約不適合責任の内容は、当事者が契約で変更することができます。
たとえば、契約不適合責任は、民法上、1年間存続しますが、商人間の取引のついては、検査後容易に発見できない契約不適合については6ヶ月以内に発見できなければ売主は契約不適合責任を負いません。そこで、契約によって、この期間を伸長することが考えられます。
第○条(契約不適合)
1 乙は、第○条に定める検査において、納入された本件商品がその種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合(以下「契約不適合」という。)、第○条の特別採用に該当しない場合でも、履行の追完又は代金の減額を請求することができ、併せて個別契約の全部又は一部の解除をすることができる。
2 第○条に定める検査を終了した後といえども、検査時において容易に発見できない契約不適合で検査終了後1年以内に発見されたものについては、前項と同様とする。
3 乙は、甲から契約不適合が存在する商品を提供されたことにより損害を被った場合は、甲に対してその賠償を請求することができる。なお、この場合の損害には履行利益一切を含むものとする。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、以下の記事を参考にしてください。
売買基本契約書を作成するときに気をつけること
以上、売買基本契約書を作成するときに気をつけるべきことは
- 個別契約の成立条件
- 検品
- 所有権の移転時期
- 支払期日
- 契約不適合
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 三島大樹先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した売買基本契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。