この記事では、弁護士が、一般的な創業株主間契約書の作り方を雛形条文つきで解説します。
創業株主間契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
創業株主間契約とは
各条項の解説をする前に、そもそも創業株主間契約とはどのような役割をする契約書なのでしょうか。
読んで字のごとく、創業株主間契約は、「創業時の」「株主たちの間で」取り交わされる契約です。
たとえば、CEO50%、CTO50%の持分割合で株式を保有して法人を設立したとします。
順調に行っているときはいいですが、CEOとCTOが喧嘩をしてしまったらどうなるでしょうか。
CTOが会社を飛び出してしまい、音信不通になったら?
このような状況になって、なにも契約がない状態だと、会社の株式はいつまでもCTOが保有し続けたままになってしまいます。今回の持分比率を前提にすると、CEO単独では毎年の定時株主総会すらまともに開催できない状態に陥ってしまいます(過半数を保有していないため)
このような状況は、特に短期間で急激な成長を目指すスタートアップの初期段階において頻繁に発生します。
そこで、このような事態が発生したときに、残留者が離脱者の株式を強制的に取得できる取り決めを交わしておくのです。
これが、創業株主間契約の役割です。
各条項を作るときのポイント
では、創業株主間契約書にはどのような条文を記載することになるのか、具体的に説明していきます。
株式譲渡事由を明記する
まずは、どのような場合に強制的な株式取得が可能になるのか、その事由を列挙します。
一般的には、会社の役員や従業員の地位を失った場合や、死亡した場合を記載します。死亡した場合については、何も定めがないと、法定相続人に株式が相続されてしまうため非常に厄介です。そのため、(若くして創業した場合は想像しにくいかもしれませんが)死亡した場合にも残留者が株式を取得できる旨を定めます。
役員でも従業員でもない創業株主がいた場合には、記載方法が悩ましいですが、顧問などの立場にあるのであれば、それらの地位や契約が終了した場合を譲渡事由とすることが考えられます。
以下に文例を記載します。
第○条(株式譲渡)
本契約のいずれかの当事者に以下のいずれかの事由が生じた場合には、その理由のいかんを問わず、次条に定める買取権者は、当該当事者(以下「離脱者」という。)に対して、離脱者が保有する会社株式のうち買取権者が指定する数の株式を、買取権者に譲渡しなければならないものとする。
一 会社の役員および従業員のいずれの地位をも喪失した場合
二 本契約に違反した場合
三 死亡した場合。なお、この場合、買取権者は、離脱者の相続人に対して、本条前項の譲渡請求を行うことができるものとする。
買取権者
誰が強制的に株式を買い取ることができるのかを明記します。
冒頭にあげた50%:50%のような事例では、残留した株主が買い取ることができる、としておくことが考えられるでしょう。
他方で、たとえば90%:10%のように、一方に圧倒的なイニシアチブがあるような資本構成の場合は、90%保有株主が買取権者になる(創業株主間契約は、もっぱら多数株主のために締結する)と定めることも考えられます。
ここでは、残留した株主が買い取れるとする場合の例文を紹介します。
第○条(買取権者)
第○条の株式の買取権者は、離脱者以外の本契約当事者とする。
譲渡価格
ここが一番悩ましい部分です。
譲渡するときに、会社設立時から会社の価値があまり変わっていないときには、そこまで問題にならないのですが、特にスタートアップのように短期間で急激な成長をするケースでは、外部株主(VC等)が参加することによって、会社設立後1年、2年といった段階でも、バリュエーションが一気に数億円になっていることがあります。
こうなってくると、たとえば10%の株式であっても、単純に割り算をすると数千万円の価値を持っているという計算になります。
これではとても支払うことができないので、たとえばバリュエーションがあがったあとであっても、創業株主間契約に基づいて譲渡をする場合には会社設立時の株価(取得価格)とすることが考えられます。その場合の例文を挙げます。
第○条(譲渡価額)
買取権者が離脱者から買い取る会社株式の1株あたりの譲渡価額は、離脱者が当該会社株式1株を取得したときの価額と同額とする。但し、会社において株式分割、株式併合、株主割当ての方法による募集株式の発行若しくは処分、または株式無償割当てが行われた場合には、合理的と認める譲渡価額に調整されるものとする。
ほかにも、簿価純資産法によって計算する場合や、直近のバリュエーションに従う場合、これらをミックスする場合など様々なケースがあります。
譲渡手続き
株式を強制的に譲渡することを契約書で定めることは事由ですが、契約書に定めたからといって、会社法上の株式譲渡手続きを無視できるわけではありません。
具体的には、会社に対して譲渡承認申請を出し、会社側で譲渡承認の決議をする、株主名簿を書き換える、といった手続きが必要になります。
これらの手続きに、離脱株主が協力することを契約上の義務として定めることが必要になります。
第○条(譲渡手続)
買取権者が本契約の定めに従い会社株式の譲渡請求を行った場合には、その他の契約当事者は、会社株式の譲渡承認に必要な手続に協力しなければならない。
競業禁止
離脱株主が、離脱した会社で営んでいた事業と似たような事業を、独立してから始めようとすることはよくあります。
業態によっては問題がない場合もありますが、スタートアップなど、特殊なビジネスを展開している場合、内容をすべて知っている人間に模倣ビジネスを展開されると甚大な悪影響が生じるおそれがあります。
そこで、一定期間、類似事業を営んではいけないことを契約書で定めることがあります。
ただし、無制限の期間を設定すると、憲法が定める職業選択の自由を侵害する可能性があるので、過去の裁判例にも照らして、最長でも2年程度の制限とすることが一般的です。
たとえば次のような条文になります。
第○条(競業禁止)
本契約の当事者は、会社が事業を展開する地域において、会社の役員または従業員としての地位にある間並びに会社の役員および従業員のいずれの地位をも喪失した日から○年間、会社の事業と実質的に競合する事業を直接または間接に行ってはならない。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。
創業株主間契約を作成するときに気をつけること
以上、創業株主間契約を作るときに特に気をつけるべきことは、
- 株式の譲渡事由
- 誰が株式を取得できるか
- 譲渡価格
- 譲渡手続きの協力義務
- 競業避止義務
です。これらの点に特に留意して創業株主間契約を作成しましょう。
なお、今回紹介した雛形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されている雛形を利用しました。KIYACを使えばこれらの雛形条文を利用した秘密保持契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書雛形がない人は是非利用してみてくださいね。