弁護士が教える技術開発委託契約書の作り方

この記事では、弁護士が、一般的な技術開発委託契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。

技術開発委託契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。

本記事で紹介する文書はKIYACで簡単に作ることができます。

目次

技術開発委託契約書とは

各条項の解説をする前に、そもそも技術開発委託契約書とはどのような役割をする契約書なのでしょうか。

企業が新商品や新サービスを開発するときに、自社の研究リソースだけでは足りず、外部の会社や個人に技術開発を委託することがあります。

技術開発委託契約書は、そのような場面で締結される契約書です。

技術開発に関する委託契約は、口約束であっても、契約書がなくても、法的には有効に成立します。

しかし、契約書がないと、何の技術開発を委託したのか、納期はいつなのか、代金はいくらなのか、知的財産権の帰属はどうなるのか、契約はどういった場合に解除できるのか、契約期間はどうなっているのか、といった、ありとあらゆることが「言った言わない」といった水掛け論になってしまい、非常にリスクが高いです。

特に高額の案件で契約書がないと、トラブルになったときに致命的です。

そこで、トラブルが起きたときにも万全の対応ができるように、技術開発の委託に先立って、契約書を準備することが強く推奨されます。

各条項の解説

委託する技術開発内容の特定

まず、どのような技術開発業務を委託するのか、できるだけ特定して記載しましょう。

上流の企画部分から委託する場合もあれば、企画については社内で行い、末端の技術開発部分だけを委託する場合もあるでしょう。

これらすべて、ひとくくりに「技術開発」といっても、どこまでの内容を委託するものなのか解釈の余地が生じてしまいます。

そこで、委託者受託者間で議論を重ねる過程で、仕様書を作成し、これを別紙として添付し特定することも有用です。

第○条(技術開発業務の委託)
甲は、下記技術の開発業務(以下「本件開発業務」という。)を乙に委託し、乙はこれを受託する。
      記
○○【具体的に特定して記載】

契約期間

委託する技術開発の内容によって、明確なタイムラインを設定する場合もあれば、ある程度タイムラインは抽象化させておき、継続契約とする場合も考えられます。

ここでは、一定期間を区切って契約し、異議がなければ更新されるという内容の条項例を紹介します。

第○条(契約期間)
本契約の契約期間は、下記の期間とする。ただし、期間満了の○か月前までに甲、乙いずれからも異議が述べられない場合には、本契約は自動的に同一期間で更新されるものとし、それ以降も同様とする。
      記

○○

業務委託料

どのような業務に対して、いくらの委託料が発生するのか、その支払い期日はいつか、振込手数料の負担をどうするのか、税込税別など明確に記載しましょう。業務委託料はトラブルになりやすい部分なので明確性を重視しましょう。

ここでは月額料金の場合の条項を紹介します。

第○条(業務委託料)
1 甲は、乙に対し、本業務の対価として、本業務の開始日から本契約の終了まで、下記の月額料金を支払う。なお、本業務の開始日及び本契約の終了が月の途中であっても日割り計算は行なわない。
      記

 ○円(税込)
2 甲は前項に定める委託料を当月の末日限り、乙の指定する銀行口座に振り込んで支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。

知的財産権の帰属

技術開発にあたっては、開発した技術が「発明」に該当し、特許権の出願ができる可能性があります。

このような場合に、契約書に何も定めていなければ、発明者に権利が帰属することになりますが、企業からの委託案件では、誰が発明者かといったことや、権利の帰属先について、議論が紛糾することが多々あります。

ここでは、委託案件であることを踏まえて、知的財産権についてはすべて委託者側に帰属するという条項を紹介します。

第○条(知的財産権の帰属)
1 対象技術に関する発明及び考案にかかる特許権等を受ける権利、対象技術に関する創作物及び成果物にかかわる著作権(著作権法第27条及び第28条に基づく権利を含む。)、その他本件開発業務の成果である一切の知的財産権は、第○条の業務委託料の支払完了と同時に乙から甲に移転する。
2 乙は、前項の権利移転を行うために、乙の社員が本件開発業務に従事する際に発明した技術等に関する一切の権利を、乙の社内規程等に基づき当該社員から承継取得しなければならない。

秘密保持

技術開発は、企業のノウハウや企業秘密を開発受託者に一定程度開示して実施されるケースが多いです。

開示した企業秘密などについて、明確に秘密保持義務を設定しておかないと、開示した情報は自由に利用できることになってしまいます。

別途秘密保持契約書を締結することももちろん可能ですが、ここでは契約書の一部に秘密保持条項を挿入する場合の例文をご紹介します。

第○条(秘密保持)
甲及び乙は、本契約の有効期間中及び本契約の終了後5年間は、本件開発業務に関する技術上の秘密及び本契約の履行過程で開示を受け又は知り得た技術上営業上の秘密を事前に相手方の書面による承諾を得ることなく、第三者に対しこれを一切開示、漏洩しないものとする。ただし、次の各号のいずれかに該当する情報についてはその限りではない。
(1)開示又は知得の時点で、既に保有していた情報
(2)開示又は知得の時点で既に公知であった情報、又はその後自己の責によらずして公知となった情報
(3)第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に取得した情報
(4)開示又は知得した情報によることなく、自己が独自に開発した情報

禁止事項

開発受託者に、開発の再委託を許すか、受託者側で開発した内容を商業利用することを許すかなどは、案件によってさまざまですが、これらのことについて何も規定しておかないと「原則自由」になります。

そこで、想定される禁止事項をできる限り列挙して明示するようにしましょう。

以下例文を挙げます。

第○条(禁止事項)
乙は、事前に甲の書面による承諾を得ることなく、以下の各号の行為を行ってはならない。
(1)本件開発業務の全部又は一部を第三者に再委託する行為
(2)本件開発業務に基づく権利又は義務の全部又は一部を第三者に譲渡し、又は担保提供する行為
(3)本件開発業務と同一又は対象技術と関連する研究、開発業務を自ら又は第三者のために実施する行為
(4)本件開発業務により開発された技術に基づく商品化を自ら実施し、その事業化を図る行為

一般条項

以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。

一般条項の具体的な内容については、左リンク先の記事を参考にしてください。

技術開発委託契約書を作成するときに気をつけること

以上、技術開発委託契約書を作成するときに気をつけることは、

  • 委託する技術開発内容の特定
  • 契約期間
  • 業務委託料
  • 知的財産権の帰属
  • 秘密保持
  • 禁止事項

です。

なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 中島和也先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した技術開発委託契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。

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