弁護士が教える転籍協定書の作り方

この記事では、弁護士が、一般的な転籍協定書の作り方をひな形条文つきで解説します。

転籍協定書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。

本記事で紹介する文書はKIYACで簡単に作ることができます。

目次

転籍協定書とは

転籍とは、①転籍元の企業と従業員の間の労働契約を合意解除した上で、転籍先と当該従業員の間で新たに労働契約を締結すること、または②転籍元と転籍先との間で契約を取り交わし、労働契約上の使用者としての地位を譲渡することを意味します。

いずれの場合も、転籍元と転籍先の就労条件や賃金体系が完全に同一ということは稀であることから、転籍後の条件調整が問題となります。

また、今回紹介するのは転籍元企業と転籍先企業の、企業間の協定書(契約書)ですが、これとは別途、転籍元と従業員の間で、転籍に関する同意書を取得する必要があります。転籍に関する同意書に記載されている雇用条件と、企業間の転籍協定書に記載される条件に齟齬が生じないように注意する必要があります。

なお、転籍に似た概念として「出向」があります。出向は、出向元との労働関係を維持しながら、労務の提供を出向先で行う点において転籍と異なります。出向では、転籍と異なり、出向元のルールと出向先のルールが複雑に絡み合います。詳細は以下の記事をご覧ください。

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各条項の解説

転籍の法的性質を特定する

上記のとおり、転籍には、①転籍元の企業と従業員の間の労働契約を合意解除した上で、転籍先と当該従業員の間で新たに労働契約を締結するパターンと、②転籍元と転籍先との間で契約を取り交わし、労働契約上の使用者としての地位を譲渡するパターンが存在します。

転籍協定書上も、今回の転籍がどのような法的性質を持つものなのか、明示することが望ましいでしょう。

ここでは①のパターンの文例を紹介します。

第○条(転籍内容)
甲は、本人の同意を得て、下記の従業員(以下「丙」という。)を退職させ、乙は、丙を乙の従業員として採用する(以下「本件転籍」という。)。

転籍者の特定

次に、転籍者を特定します。氏名だけではなく、生年月日や住所などで具体的に特定するのが望ましいでしょう。

また、転籍元の退職日、転籍先における入社日も明記しておきましょう。

第○条(転籍内容)
甲は、本人の同意を得て、下記の従業員(以下「丙」という。)を退職させ、乙は、丙を乙の従業員として採用する(以下「本件転籍」という。)。
      記
(1)丙の氏名、生年月日

 〇〇太郎、生年月日○年○月○日
(2)丙が甲を退職する日

 ○年○月○日
(3)乙が丙を採用する日(入社日)

 ○年○月○日

労働条件

上記の通り、転籍は転籍先に完全に雇用契約が移りますので、転籍元と転籍先の就労条件が異なる場合にはその調整が必要となります。

ここでは転籍先の就業規則その他就労条件に従う場合の文例を紹介します。

なお上記の通り、就業条件の変更に関しては、転籍元と従業員の間の同意書において合意をしておく必要があります。

第○条(労働条件)
1 本件転籍後の労働条件については、次項及び本協定に別段の定めがない限り、乙の就業規則の規定に従う。
2 本件転籍後の丙の契約種別、給与等、労働時間、休暇、就業場所、役職及び担当業務は、別紙のとおりとする。

給与の取り扱い

給与体系についても、基本的には転籍先の賃金規定等に基づいて支給されることになります。

ここで問題となるのはいつまでの給与を転籍元が支払い、いつからの給与を転籍先が支払うのかです。シンプルに考えると転籍日基準の日割り計算が考えられますが、締日の関係などで難しい場合は別途の定めも検討できるでしょう。ここでは転籍日基準の文例を紹介します。

第○条(給与等)
1 本件転籍日の前日までの給与は、甲の就業規則及び関連規程に従い甲が支給し、本件転籍日以降の給与は、乙の就業規則及び関連規程に従い乙が支給する。

社会保険の取り扱い

社会保険の負担についても、原則として転籍先での加入となります。

ただし給与同様精算の問題がありますので、精算の基準(日)について記載するようにしましょう。

第○条(社会保険等)
乙は、本件転籍後の丙の健康保険、厚生年金、雇用保険及び労災保険について、乙の責任において付保するものとする。

一般条項

以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。

一般条項の具体的な内容については、以下の記事を参考にしてください。

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転籍協定書を作成するときに気をつけること

以上、転籍協定書を作成するときに気をつけるべきことは

  • 転籍の法的性質の特定
  • 転籍者の特定
  • 労働条件
  • 給与の取り扱い
  • 社会保険の取り扱い

です。

なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 吉本侑生先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した転籍協定書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。

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