この記事では、弁護士が、一般的な退職合意書の作り方をひな形条文つきで解説します。
退職合意書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
退職合意書とは
退職合意書とは、そのタイトルどおり、会社と従業員が退職について合意する内容の契約書です。
従業員が会社を退職する場合、退職合意書やこれに類する契約書を作成する法的な義務はありません。一般的には辞表を提出するだけで退職しているケースもあります。
しかし、会社側のリスクヘッジとしてはこれでは十分ではありません。
たとえば、何年何月何日付で退職したのか、退職した日が属する月の賃金はどこまで支払う義務があるのか、万が一未払い残業代が発生していた場合、その支払い義務はどうなるのか、物品や資料の返還義務はどこまで発生するのか、引き継ぎの義務は発生するのかなど、辞表1通だけでは、さまざまな事柄が不明確なまま進んでいくことになります。
そこで、これら退職にまつわる各種トピックの内容を明確化し、合意して契約化することで、会社のリスクヘッジを果たすのが、退職合意書の役割になります。
各条項の解説
雇用契約の終了日時の特定
まず、雇用契約がいつ終了するのか、具体的な年月日で特定しましょう。
第○条(雇用契約の終了)
甲と乙は、甲乙間の雇用契約を下記の年月日限り、合意解約する。
記○年○月○日
業務の引き継ぎ
業務の引き継ぎをどこまで行う必要があるのか明記しましょう。
文例では抽象的な内容のものをご紹介しますが、業種、職種に応じて具体的な引き継ぎ作業の内容を特定できる場合は、その内容を列挙して記載するのが有用です。
第○条(業務の引継ぎ)
乙は、第○条で定めた日までに、担当業務を後任者に引き継ぐ義務を負う。
最終月給与の取り扱い
最終月給与を、どこまで支払うのか、いつまで支払うのかについて明記しましょう。
最終月の給与は満額支払う必要はなく、就業規則に基づいて日割り計算を行うことになります。
第3条(給与)
甲は、乙に対し、雇用契約終了日が属する月の給与を、下記の期日までに、乙の指定する銀行口座に振り込んで支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。
記○年○月○日
退職慰労金の取り扱い
退職金その他これに類するものが就業規則や賃金規定で定められている場合、又は経営陣の裁量により退職金を支給する場合は、その金額や可能な場合は計算根拠、支払い期日等を明示しましょう。支給を一切行わない場合には、確認的に支給しない旨を記載しておくと安全でしょう。
第○条(退職功労金)
甲は、乙に対し、前条の金員とは別に、退職功労金として、下記の退職慰労金を、前条と同じ期日までに、乙の指定する銀行口座に振り込んで支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。
記金○円
清算条項
最後に、清算条項を設置しましょう。
特に問題となるのは、退職後に未払い残業代があったと主張して請求してくるケースです。このようなケースに対する防御のために、本合意書に定めるもののほかに、何らの金銭の支払い義務も会社に無いことを明示し、合意しましょう。
第○条(清算条項)
1 甲と乙は、甲乙間において、本合意書に定めるもののほか何らの債権債務がないことを相互に確認する。
2 乙は、本合意書に定めるもののほか、甲乙間の就業及び退職に関する事項に関する一切の要求、訴訟、申立てを行わない。
秘密保持義務
なお、退職合意書の中で退職後の秘密保持義務について規定することも検討できます。
秘密保持義務については以下の記事で紹介していますのでご参照ください。
退職合意書を作成するときに気をつけること
以上、退職合意書を作成するときに気をつけるべきことは
- 雇用契約の終了日時の確定
- 業務の引き継ぎ
- 最終月給与の取り扱い
- 退職金の取り扱い
- 清算条項
- 秘密保持義務
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 吉本侑生先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した退職合意書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。