この記事では、弁護士が、一般的な出向元・出向先間での出向契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。
企業間の出向契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
企業間の出向契約書とは
出向とは、現在雇用されている企業(出向元)の従業員としての地位を残したまま、ほかの企業(出向先)において、その指揮命令のもとで勤務する労働形態をいいます。
出向契約にあたっては、出向元の従業員の地位が残っているため、どこまでが出向元のルールが適用され、どこからが出向先のルールが適用されるのかについて争いが生じることが多いです。
そのため、出向契約において、出向元と出向先のルールの振り分けについて具体的に記載しておくことがリスクヘッジとなります。
出向契約は、「出向元」と「出向先」の間で締結される契約と、その内容を踏まえて「出向元」と「出向者」の間で締結される契約の二つに分かれます。
今回の記事では前者の「出向元」と「出向先」の企業間で締結される契約書について紹介します。
後者の「出向元」と「出向する従業員」の間の契約書については次の記事をご覧ください。
各条項の解説
出向者、配属先、業務の特定
まず、出向者が誰で、出向先のどの事業所、事業部に配属され、どのような業務に従事するのかを契約上明確にしましょう。
また、今回の契約の性質が「出向」であることを明示しましょう。
第○条(出向の目的)
甲は、乙の行う下記の事業に従事することを目的として、下記の出向者を乙に出向させるものとする。
記
(1)出向者が従事する事業
〇〇(2)出向者の氏名
〇〇
(3)乙における所属・役職名等
〇〇
出向期間
出向は、出向元における雇用契約を残すという性質から、通常、一定の期間を設定して行われるものです。
そのため、出向契約書において、出向の期間を具体的に明示しましょう。
第○条(出向期間)
1 出向者の出向期間は、下記のとおりとする。
記〇年〇年○日から〇年〇年○日まで
2 甲又は乙のいずれかの都合により、出向期間の延長または短縮を希望するときは、相手方に1か月前までに申し出るものとし、甲乙協議のうえ、決定するものとする。
就業規則等の適用
出向で問題になるのは、どこからが出向元のルールで、どこからが出向先のルールが適用されるのかという分水嶺です。
たとえば労働時間や就業中の服務規律については、物理的に拘束される出向先でのルールが適用されることが多いでしょう。その場合には次のように規定することが考えられます。
第○条(規程)
1 出向者の乙における服装規律、労働時間、休日及び休暇その他の労働条件は、乙の規程を適用する。
2 出向者に賞罰を行う必要が生じた場合は、甲乙間にて事前に協議するものとする。
給与の負担
出向の場合の給与は、出向元が引き続き支払うケースもあれば、出向先が支払いまで行うケースもあります。
どちらが支払うのかは出向元・出向先の間の「決め」の問題になるため、出向元と出向先の契約書において明確に取り決めましょう。
第○条(給与等の負担)
出向者の給与、時間外勤務手当、休日勤務手当、出張旅費及び賞与については、全て乙の負担とし、乙の規程に基づき乙が支給する。
社会保険の負担
社会保険については、あくまでも出向元の従業員としての地位を継続して保有することから、出向元の社会保険に加入したままとすることが多いでしょう。
この場合でも、社会保険料を出向元が負担するのか、出向先が負担するのかについては、出向元・出向先の「決め」の問題となります。
なお、労災保険に関しては、労災保険の趣旨が就業場所で起きた事故に対する強制保険という性質であることから、出向先において付保されるのが一般的です。
第○条(社会保険)
1 出向者の健康保険、厚生年金保険、厚生年金基金、雇用保険については、甲がその被保険者資格を継続する。ただし、事業主負担分の保険料については、乙が負担する。
2 出向者の労災保険については、乙が付保する。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、以下の記事を参考にしてください。
企業間の出向契約書を作成するときに気をつけること
以上、企業間の出向契約書を作成するときに気をつけるべきことは
- 出向者、配属先、業務の特定
- 出向期間
- 就業規則の適用
- 給与の負担
- 社会保険の負担
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 吉本侑生先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した企業間の出向契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。