弁護士が教えるネットショップ用利用規約の作り方

この記事では、弁護士が、EC・ネットショップ用利用規約の作り方をひな形条文つきで解説します。

EC・ネットショップ用利用規約を今すぐ準備しないといけない方は必見です。

本記事で紹介する文書はKIYACで簡単に作ることができます。

目次

ネットショップ用利用規約とは

さまざまなプラットフォームやWebサービスの提供が進み、EC・ネットショップを開設することは一昔前と比べて格段に簡単になりました。

ただし、ネット販売は、店舗での販売と異なるさまざまな落とし穴があります。また、ネット販売に典型的なトラブルのパターンも多数存在します。

これらのトラブルに対処するために、EC・ネットショップを開設するにあたっては、必ず利用規約を整備するようにしましょう。

各条項の解説

アカウント登録と登録拒否事由

多くのネットショップでは、顧客にアカウント登録をさせる仕組みを実装していると思います。

ここで、アカウント登録をする場合のルールだけではなく、アカウント登録を拒絶する仕組みについても記載するようにしましょう。

たとえば、過去に規約違反を犯したユーザーや、カスハラをしたユーザーが登録をしようとしている場合、何も規定がなければ登録を拒絶するときにトラブルになってしまいます。

そこで、ユーザー登録時に、一定の事由がある場合は「登録拒否」ができると記載しておくことで、そのような人物のアカウント開設を拒否することができるようになります。

たとえば次のような条項が考えられます。

登録拒否
当ショップは、以下のいずれかの事由があると判断した場合、利用登録の申請を承認しないことがあります。当ショップは登録拒否の理由について一切の開示義務を負いません。
・虚偽の事項を届け出た場合
・本規約に違反したことがある者からの申請である場合
・その他、当ショップが利用登録を相当でないと判断した場合

未成年による利用

法律(民法)上、未成年は、特別な扱いを受けています。
特にビジネスの領域において問題になるのが、「取消権」です。

民法

(成年)
第四条 年齢十八歳をもって、成年とする。

(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。(以下略)

ここで、まず、「法律行為」とは、要するに契約のことです。ネットショップでいうと、ネットショップ利用規約への同意も法律行為ですし、個別の商品の売買契約も法律行為です。

次に「法定代理人」とは、要するに親権者であるお父さんお母さんのことです。

すると、民法5条1項2項は、次のように読み替えられます。

(未成年者が当ショップを利用するとき)
第五条 未成年者が利用規約に同意をしたり、当ショップで商品を購入するには、お父さん又はお母さんの同意を得なければならない。

2 お父さんお母さんが当ショップの利用を許してくれなかった場合、お父さん又はお母さんは、子供が勝手にした利用規約への同意や商品の売買契約を取り消すことができる。

特に若年層をターゲットにしているネットショップでは、以上の取消権が乱発されると深刻な損失が発生してしまいます。

そこで、たとえば次のような条項を置くことで、事業者を一定程度保護することが考えられます。

未成年による利用
お客様が未成年である場合には、法定代理人の同意を得た上で、当ショップを利用してください。
法定代理人の同意を得ずに当ショップのご利用を開始したお客様が成年に達した場合、未成年者であった間の利用行為を追認したものとみなします。

まず1文目ですが、事業者からすると、ユーザー登録をしてきた人物が未成年なのか、成年なのかを判断することは困難です。そこで、このサービスを利用する場合は、必ず法定代理人(お父さんお母さん)の同意を得てください、ということを、利用規約上のルールにしています。もし、同意を得ずに、勝手にサービスを使った場合は、お父さんお母さんから取消権の行使を受けることもありますが、逆に、事業者側から利用規約違反による強制退会をさせることもできることになります。

次に2文目ですが、これは未成年のときにお父さんお母さんに内緒で勝手にサービスを使っていた未成年が、18歳になった場合は、もはや取消権を行使できず、さらには過去の利用行為をなかったことにして利用料金を踏み倒すこともできないと定めたものです。

お父さんお母さんから取消権の行使を受けた場合、その主張を完全に排斥することは難しいですが、以上のような仕掛けを利用規約に組み込んでおくことで、事業者側から一定の反論を出すことができるようになります。

売買契約の成立

有人店舗で商品を購入する場合、通常は、顧客が代金をレジで支払ったときに、商品の所有権は顧客に移転します。

ネットショップでも、画面上で決済が走った段階で売買契約が成立し、顧客に所有権が移転する法律構成も可能です。

しかしながら、ネットショップでは、購入後に配送→顧客が指定住所で受領という時間差があるため、決済時点で所有権が移転すると問題になる場合があります。

たとえば、画面上は購入可能となっていた商品が、在庫管理にミスがあり実は存在しない商品だった場合。

たとえば、出荷手続きの途中でトラブルがあり商品に傷がついてしまった場合。

これらの場合も、決済時点で所有権移転と構成すると、ショップ側には商品を指定住所まで届ける法的義務が発生してしまいます(義務を履行できない場合には損害賠償責任が発生)。

そこで、利用規約において、売買契約の成立時点を決済時ではなく商品の発送時とすることで、所有権の移転時期をずらし、発送時までにトラブルがあった場合には、売買契約は成立しない(店舗としては受領済みの代金を返金するだけで済む)とすることが考えられます。

ご注文
商品をご注文いただいた場合、お客様からのご注文は、当ショップに対する商品購入についての契約の申込みとなります。お客様からの契約申込みに対する当ショップの承諾は、当ショップから商品が発送されたことをお知らせするメールその他の方法によるご連絡がお客様に送信されたときに成立します。

返品

ネット販売では、いわゆるクーリングオフの適用はありませんが、代わりに法定返品権という制度が存在します。

法定返品権とは、ネットショップで購入した商品について、商品の到着後8日以内であれば、売買契約の申し込みの撤回、あるいは売買契約の解除を認める制度です。

法定返品権は、クーリングオフとは異なり、特約によってその適用を排除することが可能です。

そこで、利用規約において、法定返品権の適用をしないことを明示しておきましょう。

一定の返品を受け付ける場合は、○日以内、○時間以内、連絡の方法など、個別具体的に記載するようにしましょう。

ご注文のキャンセル
お客様都合による注文のキャンセルは受け付けておりません。

なお、クーリングオフと法定返品権については以下の記事もご参照ください。

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商品の交換

法定返品権の行使と似た論点として、商品の交換要望への対応があります。

これについては、一律応じないとする判断もあり得ますし、レピュテーションの観点、商品の性質に照らして一定程度事業者の判断で受け付けるというルールもあり得るところです。

以下では一定の場合に限り、日数制限を設けて、交換に応じる場合の文例をご紹介します。

返品・交換
返品・交換は受け付けておりません。ただし、商品が明らかな不良品であると認められる場合は、商品の受領日の翌日を初日とする3日以内に、不良品であることの具体的な理由を記載したメールを当ショップ指定のメールアドレス宛に送信いただき、同メールが当ショップに到達した場合に限り、返品又は交換に応じます。以降の返品・交換はいかなる理由であっても認められません。

受領拒否への対応

ネットショップでよく問題になるのが顧客による商品の受領拒絶。

「自分で頼んでおいて、なぜ受け取らないのか?」と思うかもしれませんが、実際、受領拒否のケースは後を立ちません。

そこで、このような場合の対処として、商品の保管期間を設けることが考えられます。

保管期間を経過した場合は、売買契約が解除されるものとし、以後、ショップ側は、同じ商品を別の顧客に販売することができるようにします。

受領拒否等
お客様が商品の受領に応じない場合、届け先不明の場合、その他お客様の都合でご指定のお届け先への配送ができない場合には、往復の配送料、代金引換手数料、返品事務手数料、商品保管料、再配送料、内容証明郵便その他お客様との通信に要した費用、梱包資材費、発送及び返送事務に要した人件費が当ショップの損害となります。当ショップは、これらの費用をお客様に請求することができます。受領がなかった日から下記の期間が経過した場合、当ショップとお客様との売買契約は、お客様都合により解除されたものとみなします。この場合、 当ショップは商品の引渡義務を免れるとともに、お客様は、違約金として、上記の損害額に加え、当該商品に係る代金相当額を直ちに当ショップに支払うものとします。
 商品の保管期間
  ○日間

一般条項

その他、一般的な利用規約において整備される各種規定を準備することになります。

一般的な利用規約の各種規定については以下の解説記事をご参照ください。

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ネットショップ用利用規約を作成するときに気をつけること

以上、ネットショップ用利用規約を作成するときに気をつけるべきことは

  • アカウント登録と登録拒絶事由
  • 未成年による利用
  • 売買契約の成立
  • 返品
  • 交換
  • 受領拒否への対応

です。

なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士 喜多啓公先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用したネットショップ用利用規約を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。

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