この記事では、弁護士が、商標権譲渡契約書の作り方をひな形条文つきで解説します。
商標権譲渡契約書を今すぐ準備しないといけない方は必見です。
商標権譲渡契約書とは
商標権は、商標権者が、第三者に自由に譲渡することができる権利です。
ただし商標権の譲渡については、特許庁への登録がなければ効力が発生しないことになっています。
商標法
(特許法の準用)
第三十五条 特許法・・・第九十八条第一項第一号・・・の規定は、商標権に準用する。(以下略)特許法(読み替え)
(登録の効果)
第九十八条 次に掲げる事項は、登録しなければ、その効力を生じない。
一 商標権の分割、移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)、信託による変更、放棄による消滅又は処分の制限
そこで、契約者においては、単に商標を譲渡するということだけではなく、特許庁への登録を行うことについても明確に定める必要があります。
なお、商標権を譲渡するのではなく、使用の許諾をする場合(通常使用権の設定)には以下の記事をご参照ください。
各条項の解説
商標権の特定
まず、譲渡する商標権を特定します。
商標権は、特許庁における商標登録番号、商標の名称、指定商品又は指定役務の番号(第○類)で特定します。
わからない場合は、特許庁のホームページ(J-PlarPat)で検索することもできます。
第○条(目的)
甲は、乙に対し、甲の保有する下記商標権(以下「本件商標権」という。)を乙に譲渡し、乙はこれを譲り受ける。
記
(商標権の表示)
(1)商標登録
〇〇
(2)商品・役務の区分及び指定商品・役務
〇〇
(3)商標
〇〇
譲渡対価
商標権譲渡の場合の譲渡代金は、契約当事者同士で自由に決めることができます。
別記事でご紹介した商標権の通常使用権設定の場合と異なり、商標権譲渡の場合には買い切りとなりますので、一括での料金設定をすることが多いです。
第○条(対価)
乙は、前条の本件商標権の譲渡の対価として、下記の代金を、下記の支払期日までに甲の指定する下記銀行口座に振り込んで支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。
記
(1)代金
〇〇
(2)支払期日
〇〇
(3)振込先口座
〇〇
移転登録義務
上記のとおり、商標権の譲渡については特許庁への登録がなければ効力が発生しません。
そこで、契約書において、移転登録に協力することを契約当事者の義務として定める必要があります。
移転登録を代金支払後に実施するのか、代金支払前に実施するのかなどは当事者が自由に取り決めることができます。
ここでは代金支払後に移転登録を実施する場合の文例を紹介します。
第○条(登録)
甲は、乙が前項の対価の支払を完了したときは、本件商標権の移転登録及び名義変更に必要な書類を乙に交付するとともに、かかる手続に協力するものとする。ただし、移転登記及び名義変更に要する費用は、乙の負担とする。
第三者からの請求があった場合の対応
譲渡の対象となる商標が、第三者の商標を侵害しているとして、当該第三者から損害賠償請求などがなされた場合に、どのような対応をするのかを定めておく必要があります。
ここでは、譲渡人に譲渡後も紛争解決への協力義務が発生するという定めをご紹介します。
第○条(不争義務等)
1 乙は、甲が本件商標権の有効性を直接又は間接に争ったときは、何らの催告を要することなく本契約を解除し、併せて損害の賠償を請求することができる。
2 第三者から本件商標権の無効を主張されることにより、本件商標権の有効性が問題となった場合、甲は、乙からの訴訟協力の要請があった場合には、必要かつ合理的な範囲内において、乙に協力するものとする。ただし、甲の訴訟協力により生じた費用は、乙の負担とする。
一般条項
以上が骨格となる部分ですが、以上の他、一般的な契約に含まれる条項を挿入しましょう。
一般条項の具体的な内容については、以下の記事を参考にしてください。
商標権譲渡契約書を作成するときに気をつけること
以上、商標権譲渡契約書を作成するときに気をつけるべきことは
- 商標権の特定
- 譲渡対価
- 移転登録義務
- 第三者からの請求があった場合の対応
です。
なお、今回紹介したひな形条文については、いくつかの質問に答えるだけで法律文書を自動生成できるウェブサービス「KIYAC」(キヤク)に搭載されているひな形(ご提供:弁護士法人飛翔法律事務所 吉田尚平先生)を利用しました。KIYACを使えばこれらのひな形条文を利用した商標権譲渡契約書を数分程度で作成できますので、手元に契約書ひな形がない人は是非利用してみてくださいね。